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33 フォロワーシップが変革の成否を決める

(2023/02/23)

『第32話 リーダーシップとはすなわち変革実践能力』で、諸説ある変革リーダーの資質について一考察したわけですが、資質を満足する優秀な人材が組織内でリーダーとして役割を果たせるかどうかはまた別問題です。

リーダーはまさにリード(先導)する人なので、先導される後続メンバー、いわゆるフォロワーがリーダーの意図に従い目標を達成してはじめてリーダーたりえる、というのが昨今のリーダーシップの概念です。

どちらかいうと組織開発のお話だから詳しくは変革とかイノベーションについて考えるときに触れるとして、ここではリーダーの対概念として簡単に補足的にフォロワーシップのおさらいをします。

リーダー育成は会社にとって重要な課題だし避けて通れないことですが、リーダーを育成するだけでは変革は挫折するだけであること、リーダーが能力を発揮するには組織開発が不可欠なことを理解しておく必要があります。

フォロワーと革新リーダー

実はリーダー研究は数多くありますが、フォロワーにフォーカスした研究はそれほど多くはないようです。

ビジネス環境とフォロワーの状態によって効果的なリーダーシップスタイルが異なると説いたのがコンティンジェンシー理論、リーダーとメンバーの信頼関係の深さでリーダーシップの効力が異なると説いたのがLMX理論、部下の成熟度によって有効なリーダーシップスタイルが異なるとするのがSL理論ですが、いずれもリーダーシップ研究であって、古くはフォロワーはリーダーに従属する立場とみなされていたのに対し、昨今はこれらの理論が示すように、フォロワーはリーダーと相互に影響しあう独立した立場と考えられるようになっています。

古川は組織集団における創造革新性パラドックスの発生メカニズムと克服方略に関する研究(2)
・創造的アイディアの履行は組織内の諸々の制約を受けながら、そして他部署や関係者と相互調整を図りながら進める必要がある
・創造的アイディアは、斬新なアイディアや企画案ほど不確実性を持っていることから、組織内で高い「壁」や、深い「溝」(制度的、規範的、あるいは対人的な障害)に直面する
・アイディアの生成数の多さと比較すると、それの履行数はとても少ないと指摘する研究が多い
といい、斬新な革新アイデアほど社内の理解を得にくく実現しにくい状況を創造革新性パラドックスと称しています。

難解理論

革新を進める場合に、リーダーはフォロワーからの信頼を獲得し、フォロワーの成熟度に応じフォロワーが自律的に追従するようにうまく振舞わないと、変革が立ち消えしてしまうわけです。

リーダーに強制的パワー、報酬的パワー、合法的パワーなどの強制力があれば有無を言わさず従わせることもできるでしょうが、それらの行使はときにフォロワーの感情的コンフリクトを生み、コミットメントやパフォーマンスの低下を招く可能性が強く懸念されるのでお勧めできません。

変革への抵抗

松田の企業の組織変革行動における抵抗に関するアンケート調査の報告(岡山大学経済学会雑誌 46(2),2014,61〜75)は、まさに変革に対する壁や溝について、非常に限られたサンプルではあるものの実態調査をした報告です。

ここでは組織変革行動とは、
「企業が,例えば,売上・利益等の財務諸表上の数値や職場の活性化などといった組織成果の向上を目的として,意図・計画的に従業員の意識や行動を変革するために多様な施策や活動を行う(マネジメントする)こと)」
として、そのプロセスで生起する抵抗
「施策や活動の推進が,従業員の反対,拒否,無関心といった言動によって阻害される現象,あるいはその力」
の実態の一部を明らかにすることが目的だといいます。

報告によれば、抵抗の有無の選択肢のなかでは
・自社あるいは企業グループ内の再編や統廃合
・人事考課制度の変更
・昇進あるいは賃金制度の変更
など、組織形態・構造にともなう変化や個人に直接的な影響の強い変更については抵抗が強く、
・社会貢献や企業文化活動
・経営理念や社是社訓の浸透
・非正規従業員の処遇の変更
などにさえも若干ではあれ抵抗が起こるようです。

なぜ抵抗が起きるかという質問には、
・施策や活動に関する社内説明や普及の不足
・施策や活動に対する保守的な職場の雰囲気
・施策や活動を推進するプログラムの不充分さ
といったことが原因だとされています。

抵抗の発生理由の上位回答は、
・変革には痛みが伴いそれをいやがるから
・従来の仕事のやり方に固執し変化を嫌う職場雰囲気があるから
・自社や自業界の将来の見通しについて不安があるから
だそうです。

これらの結果は先行研究と多かれ少なかれ類似していて、いつの世でも変革には同じような抵抗が起きていると考えてよいかもしれません。

注目したいのはなぜ抵抗が起きるかというくだりで、
・施策や活動に関する社内説明や普及の不足 =やり方を知らない、やる意義がわからないなど知識欠如
・施策や活動に対する保守的な職場の雰囲気 =わかっているしできるのにやらない
・施策や活動を推進するプログラムの不充分さ =わかっていても技能が伴わない

という、望ましい行動を取らない(好ましくない行動を取ろうとする)原因についての行動分析学の知見になかなか当てはまることです。

また抵抗の除去方法を聞いたところ
・自社の将来イメージを明確にする
・仕事のやりやすい職場環境づくりを進める
・企業理念や経営ビジョンを明確にする
・経営トップの方針を理解させる
・自社業績や社内諸事情に関する情報開示を進める
・施策や活動にできるだけ従業員を参加(参画)させる
・職場内コミュニケーションがよくなるように努める
・変革後の自社イメージに関して説明・啓蒙する
など、組織開発的な対策が抵抗を鎮める手段として取られているようです。

説明

変革が動き出してから抵抗されるのは無駄にプロジェクトコストを押し上げるうえ、変革を前提にした経営戦略の成否にもかかわってくることなので、事前に慎重に対策して効果的に予防したいものです。

抵抗の予防・抑止対策の留意事項

フォロワーの革新志向を強化するために危機感をあおることがありますが、時と場合によって逆効果になりあまりお勧めできません。

危機感を高めるのはいわば恐怖喚起コミュニケーションの一種にあたるわけですが、恐怖喚起コミュニケーションが有効なのは
・フォロワーがその危険を不快と感じる
・フォロワーがその危険が降りかかる可能性を感じる
・回避できるかもしれないと信じられる
・フォロワー自身は回避行動を取れると信じられる
といった場合なので、
なぜ変革が必要かわからない、危機回避するための知見がない、変革しないリスクよりわが身への変化を嫌がる、といった場合には、むしろ危機そのものを否定する正常性バイアスが生じかねないでしょう。

ジョン・P・コッターは、『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(2022年)では危機感が強いと委縮するので生存本能より繁栄本能をレバレッジにすべきだと指摘していて、とはいえ程々で満足する人にはそれも通じないので、だから変革は難しいのかもしれません。

ことさらやっかいなのは、フォロワーに変革の必要性を理解できるだけの前提知識が備わっていない場合です。

人は物事を理解しようとするときには、自分がすでに持っている知識を手掛かりにして理解対象の意味を解釈するわけですが、学んだことがない外国語のヒアリングのように、理解するうえで必要な知識がない場合にはどんなに簡単な内容でも解釈しきれないのです。

変革の必要性を説明しているときはうんうんと理解したようなリアクションをしていても、実は全く役割を果たさず後になってそれが原因でプロジェクトが致命的状態に陥ることがあります。

変革の必要性や自分の果たすべき役割が理解できていないにもかかわらず、了解したようなそぶりをしないと自分にとって不利益になると感じ、了解したかのようにフォロワーが振舞うことは少なくありません。

合理的であろうと意図するけれども、認識能力の限界によって、限られた合理性しか経済主体が持ち得ないことを限定合理性(bounded rationality)といいます。

理解できないことを意思表示してくれればよいのですが、わかったようなふりをすることがしばしばあって、のちのちの禍根になることは少なくありません。

相手の能力を正しく見極めて役割を割り当てないと、思わぬ落とし穴にはまることがあって要注意といえます。

変革を円滑に進めるために

この記事はそもそもリーダー育成だけでは変革は達成できない(取り組んでも立ち往生する)ことを認識するための記事なので、フォロワーを育成するための考え方や方法論は別途組織開発のお話の中で触れたいと思っています。

変革を成功に導くには、火力の強い火種を作るのみならず、点火されたら勢いよく燃え上がり燃え続けうまく燃え広がる良質の薪を用意することも重要なわけで、従業員全体つまり組織の適切なメンテナンスの仕組みが必要になります。

焚火

会社経営に関して我関せずでなく主体的に関与していく姿勢、理念ミッションビジョンの浸透、コミットメントやモチベーション、公正、正当、信頼、といった組織風土・文化が重要で、産業組織心理学に多くのヒントがあるのでうまく対処していきたいものです。

昔の人は瓜の蔓に茄子はならぬといいましたが、いい組織開発ができていない組織ではいくら腕利きであってもリーダーシップを発揮できないという教えでもあるかもしれません。

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