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28 マネージャ育成の前提知識

(2023/01/15)

マネージャに必要なスキルのもっともらしい解説はあちこちで見かけますが、それをどんなときにどんな原因やプロセスに対しどう発揮すればどういうメカニズムで良くなるのか、根拠と説得力のありそうな解説は見かけたことがなくて、体系的な主張とも見えずリーダーとの違いもあいまいで、それがどう実務の役に立つか不明確ゆえに頑張って能力強化する意欲は喚起されそうにないのです。

『27話 リーダー・マネージャ育成の第一歩は役割定義』で、マネジメントの目的を経営資源を今の業務システムを使ってできるだけ効率よく付加価値に変えることに端を発すると考え、そのため現状の業務プロセスありきでその非効率を減じながら、組織のポテンシャルをいかに発揮させるかという取り組みがまず重要だとざっくり定義したわけですが、そのために必要なマネジメント能力を特定しトレーニング方法を考えるにはもう少し仕事の具体化が必要でしょう。

もちろん現行の業務プロセスを維持・安定運用し、効率性を高めるために業務進捗をモニタリングし既知の方法でコントロールする行動だけがマネージャの仕事という訳ではなくて、多々あるなかでまずこの仕事をこなせることが本来的だということであり、企業価値改善など、会社や職種によって何がマネジメントなのかは異なるだろうから、会社ごとに納得いく定義をして役割とスキルを見出していくのが大前提だと言えます。

ここでは場当たりや独りよがりにならないように、いくつか過去の研究の知見をレビューしてみます。

これで過去の研究を総括できている訳ではありませんが少なくとも、これらを読み直すことで、マネージャに求められる仕事をそれなり網羅し、自社にとってマネジメントとは何なのか、体系的に考え直すきっかけにできると思います。

マネジメントの原型

1960年代にはじめて組織心理学という言葉を使った社会心理学者のリーヴィットは、5人の集団から形成される「円型」、「鎖型」、「Y型」、「車輪型」の4つのネットワーク・タイプのコミュニケーションについて研究しています。

ネットワーク・タイプ

実験の結果、一番作業効率がよかったグループは「車輪型」で一番効率が悪いグループが「円型」でした。しかし逆に、成員の満足度が一番高かったのが「円型」で一番低かったのが「車輪型」だったといいます。

車輪型は中心の人物がリーダー(注)となり情報を全部集め処理するので、仕事の効率は良くなるものの上下関係ができて下の人たちは不満を抱えることになり、いっぽう円型は平等なので不平は出にくいものの、情報伝達の効率はよくないわけです。

(注)ここでいうリーダーはいうまでもなくイノベーションを率先する人という意味ではなく、情報収集伝達をするマネージャ的立場の人です

鎖型、Y型はこの2つの中間に当たり、完全な平等でも上下関係でもなく、派閥ができたりしやすいのだそうです。

つまり、複数のメンバーが集まってチームを作り協働しはじめた時に、効率的に成果を出すうえで最初に必要になったのがチームワークと相互の情報伝達の円滑化を担うコミュニケーションハブ役の人であり、同時にチームマネジメントが必要になった、ということなのかもしれません。

コミュニケーションが十分でなく業務の円滑な実施をサポートしていないないマネージャもしばしばいますが、むしろ業績の邪魔をしているといっていいのかもしれません。

マネージャ業務の研究

リーダーシップという観点での研究蓄積は膨大にあるのに、ミドルマネジャーの役割そのものを直接の対象とする研究は実はあまり多くはないのだそうで、比較的知られたものとしては、管理者の日常の行動の観察から優れた管理者の役割あるいは機能を明らかにしたMintzberg や Kotter、金井らの研究があるといいます。

それらを参照して、管理者が効率的なマネジメントをするための手掛かりを模索したのがミドルマネジャーの役割再設計―役割コンフリクトの解消と役割分割の要諦―(白石 久喜 Works Review Vol.3(2008) ,74-87)で、ミドルマネジャーの役割について因子分析が行われています。

個人的には、基本的に公的・準公的な研究組織の研究成果以外はあまり信用しないことにしているのですが、他にほとんど手ごろな知見がないのでこれを参考に役割について考えてみたいと思います。

同報告によれば、
(A)部下マネジメント
部下の評価、部下の育成、部下のモチベーション管理、部下のメンタルヘルス管理など、職務を遂行する部下の状態を最適に保つ
(B)組織マネジメント
組織運営・アウトプットスピード、戦略構築・部下への発信・浸透、組織の改革・改善、法令順守など、タスク遂行,それを促進する機能
(C)例外処理
交渉・連絡・調整、トラブル解決など、戦略の達成のための職務遂行上のルーティンから外れた業務を拾う,あるいは,主業務をより円滑にするための上流・下流工程の機能
(D)資源マネジメント
部下への仕事・ノルマの配分、組織業績の管理など、限りある人的資源をどのように配分し,回収するかを設計管理する
(E)情報マネジメント
現場情報の経営への伝達、経営情報の現場への伝達など、縦方向の情報のリンクピンの機能
(F)その他
職場外でのコミュニケーション、組織の象徴的役割など、コミュニケーション促進と組織の象徴個別の役割の集合

などがマネージャとしての業務であり、これらに加えてプレイングマネージャとしてのタスクがあるとしています。

※ちなみに同報告では、調査数が十分ではなく確定的な結論には至っていないものの、あくまでも傾向からの推論として
●プレイヤーの役割は他の役割の邪魔となっている可能性が高い
●他の役割に優先して部下マネジメントを優先すべき
●部下マネジメントは,他の役割とどちらかいってトレードオフの関係
●組織マネジメントを主役割とするタスクマネジャーと,部下マネジメントを主役割とするメンテナンスマネジャーに役割分担するのがよさそう
だといいます。

個人的にはマネージャが実務をやるのは愚の骨頂で、自分がいなくても定常的な業務は回せる仕組みを作るのがマネージャの仕事だと思うのですが、なかにはそう思わない人もいるのでしょうね。

マネジメントフレームワーク

それぞれの業務を実行するのに必要なスキルに踏み込む前に、マネジメントフレームワークの概念に触れておきたいと思います。

マネジメントというのは戦略計画(strategic planning)、マネジメント・コントロール(management control)、オペレーショナル・コントロール(operational control)の3階層から構成されるというのがマネジメントフレームワークの考え方で、以下のように提唱されています。

【戦略計画】
組織目標を決定し変更するプロセス、組織目標を達成するために用いられる諸資源,およびこれらの資源の取得・使用・処分に際して準拠すべき方針を決定するプロセス

戦略計画に携わるのは主には役員クラスから企画系部長にかけてでしょうか、目標とか方針とかを決めるタスクなのでリーダーシップのニュアンスが強いといえるかもしれません。

組織マネジメントという言葉がありますが、有名なのが7S(戦略/Strategy、組織/Structure、システム/System、スキル/Skill、人材/Staff、スタイル/Style、価値観/Shared Value)で、いかにこれら要素をいい状態にチューニングして、常に変化するビジネス環境に追従して組織目的をよりよく達成できるようにするか全社的視点で考える仕事の概念で、ここでいう戦略計画と近しい「正解を探す」仕事といえそうです。

【マネジメント・コントロール】
マネジャーが,組織目標の達成のために資源を効果的かつ能率的に取得し,使用することを確保するプロセス

マネジメント・コントロールはまさにここでいうマネージャ業務で、組織にもよるのでしょうが部課長が中心になる業務に思えます。

対象は組織というほど大きくなくチームないし部門くらいまでで、日々の付加価値生産の秩序を維持し、戦略計画に基づいた予算を目標にそれを実現するコントローラーの役割になります。

【オペレーショナル・コントロール】
特定の課業が効果的かつ能率的に遂行されることを確保するプロセス

オペレーショナル・コントロールは主に主任係長が担い、管理対象としてヒトを含まずモノやコトを想定した業務というイメージです。

ひとくちにマネジメントといってもケースバイケースで意図することが違う、ということですね。

なおマネジメント・コントロールはマネジメント・コントロール概念の変容-範囲の拡大とその整理のための新たな視点-新江 孝 日本大学『商学研究』第36号 (2020年3月)など研究がいくつもあって、詳細はそちらを見てもらうということで割愛します。

コントロールのバリエーション

コントロールの仕方にもバリエーションがあります。

ここでは話を簡単にするために、先に仮定したマネージャ業務の定義を念頭に、伝統的なマネジメント・コントロールである、
【会計的コントロール】
マネジメント効果は財務会計的な指標(〇〇額とか△△費)で評価する
【サイバネティクス・コントロール】
あくまで目標の設定→実績の測定→実績と目標の比較→必要であれば是正措置の実施、という考え方で行えるコントロールを対象にする
【フォーマル・コントロール】
権限や責任にもとづく命令系統に従ったコントロールについて考える

を、ここでのマネージャのコントロール行動と仮置きします。

従業員や顧客の満足度などの指標を改善する非会計的コントロール、どうなるか効果の予見できない非サイバネティクス・コントロール、メンバーの自律的行動を促す対処などのインフォーマル・コントロールなどが昨今重要視されていますが、伝統的なマネジメントがそもそも確立できていないとそれらを取り入れることもままならないだろうと考えられるからです。

なぜマネジメントしなければならないか

マネジメントについて話題が発散しないようにいくつか予備知識も復習したところで、改めてなぜ実績マネジメントの必要性があるかを考えてみます。

仮に完全自動プロセスがあって、それに品質が安定したインプット(原材料や部品)が安定して投入されつづけ、求められるアウトプット品質も需要量も安定しているなら、摩耗故障が起きない限りメンテナンス行動(マネジメントなりオペレーショナルコントロール)の必要はなく、確実に実績が出て目標達成できるでしょう。

逆に言えば、業務プロセスに人間がかかわり、インプットやアウトプットやプロセス自体に変動が生じるからこそマネジメントが必要になる、いいかえれば人が構成するオープンシステムである限り、不確かさへの対処が必要になるのだといえそうです。

業務マネジメント≒リスクマネジメント

不確かさというキーワードに注目すると、触れておかないと片手落ちな気がするのがリスクマネジメントです。

何がリスクか他の規格類と整合しきれていないものの、ISO31000リスクマネジメント規格はリスクの定義を「目的に対する不確かさの影響」としていて、マネジメントの目的は不確かさの業務成果への影響を減じることだと考えれば、リスクマネジメントに他ならないと言えそうです。

リスクマネジメントでは詳細は略しますがリスクの洗い出し、リスク評価・選別、対応すべきリスクの優先順位付け、個別のリスクごとにPDCAを回しリスク対応・・・といった手順になります。

マネジメントサイクル

リスク対策には「予防・軽減・移転・容認」の4種類を使い分け、リスクの発生率・影響の大きさによってはリスク対策のパターンを複数組み合わせることもあって、業務マネジメントを実施するうえでも参考になります。

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