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27 リーダー・マネージャ育成の第一歩は役割定義

(2023/01/15)

企業の人事上の経営課題として上位に挙がることが多いのがリーダー不足なのですが、管理職(マネージャ)とは異なる役目であることはだいぶ認知されているものの、うまく役割の違いを説明するのが難しい概念です。

マネージャやリーダーを育成するためには、求められるエンプロイアビリティをある程度特定しないと目標が定まらないから、そのためにまずどんな役割行動を取るべきか考えるところから取り掛かりたいと思います。

リーダーシップ研究の軌跡

リーダーシップ研究は産業組織心理学の中核的研究テーマの一つで昔から多くの研究がなされています。

まずその変遷を振り返ると、

特性理論(~1940年代)
リーダーに共通した個人的な資質や特性があるという立場から研究

リーダー

行動理論(1940年代~1960年代)
有益なリーダーシップ行動に着目。代表的なものにPM理論(Performance:集団の目的達成や課題解決に関する行動、Maintenance:集団の維持を目的とする行動)がある

条件適合理論(1960年代~)
環境条件とリーダー行動のマッチングに着目。代表的なものにパス・ゴール理論(メンバーが目標を達成するために、リーダーの役割はどのような道筋を通れば良いのかを示すことが重要で、集団が置かれた環境と部下の性格や能力の掛け合わせで有効なリーダーの行動(指示型・支援型・参加型・達成志向型)が決まる)やSL理論(メンバーの発達度に注目)がある

リーダーシップ交換・交流理論(1970年代~)
リーダーとフォロワーの相互関係に着目、リーダーシップの有効性はフォロワーからの信頼獲得によって決まるとする信頼性蓄積理論や、リーダーとフォロワーの価値交換や関係性の質に着目するLMX理論などがある

コンセプト理論(1970年代~)
カリスマ型リーダーシップ理論、変革的リーダーシップ理論、サーバント型リーダーシップ理論、EQ型リーダーシップ理論、ファシリテーション型リーダーシップ理論などビジネス環境や組織の状況によって好ましいスタイルが変化するとされる

といった具合で、つまり結局いまだにリーダーシップとは何なのか明快な答えは出ておらず、少なくとも状況によって望まれるリーダーシップが異なる事はかなり確かなのです。

心理学ではリーダーシップ行動など自律的行動をとらない理由として
●やり方を知らない、あるいはやる意義がわからないなど知識の欠如
●わかっているが技能が伴わない
●わかっているしできるのにやらない
があるとされますが、リーダーシップとは何か第一線の研究者の統一見解すらないのに、所詮一介のサラリーマンには自分に求められるリーダー行動が何か思いつけるはずがなく、よってリーダー行動を取れないのは当たり前なのです。

つまり経営者は、リーダーが育たないと嘆く前にまず管理職や中堅社員に、マネージャとしてあるいはリーダーとして何をやってほしいのか具体に役割を明示し、その役割行動を取るために必要な技能や心構えのトレーニングを施す必要があって、それをやらずにリーダー行動を求めるのはただの無茶ぶりに他ならないといえます。

そして会社によって、職位によって、担当業務や状況によって、リーダーシップの在り方は異なるかもしれないことにも考慮が必要です。

マネジメントの概念の出自

マネジメントという用語がビジネスで用いられたのは、1973年にドラッカーが著した『マネジメント』が初めてらしくて、「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」を意味し、組織の成果に責任を持ちマネジメントを実行する人がマネージャーでした。

リーダーシップは産業組織心理学の研究テーマであるのに対し、マネジメントは経営学の概念だということになります。

組織において目標を設定し、その目標を達成するために組織の限りある資源を効率的に活用する活動に該当するわけですが、マネジメントという表現ではないもののその概念は当然ながら古くからあります。

1900年頃までなりゆきまかせだった工場の現場に系統的な統制の概念を持ち込んだのはテイラーで、課業管理や標準的作業条件などを定め、いわゆる科学的管理法を確立しましたが、当時はテイラー・システムとかテイラーリズムと呼ばれマネジメントという表現ではなかったようです。

昔の工場

その後経営管理過程論とか官僚制の理論などが考えられ、どのように合理的な組織運営を展開することができるかについて諸説が生まれてきたようです。

これら概念はひとくくりでいうと、マネジメントはおおむね計画、組織、指揮、統制などの要素によって構成され、PDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:測定・評価、Action:対策・改善)のように循環的に繰り返される、労働者を効率的に管理するための手段とみなされてきたと言ってもよさそうです。

ということは、PDCAを回せない人はマネジメントに携わる能力がないということでもあります。

リーダーシップとマネジメントの諸説

代表的な変革的リーダーシップ理論を提唱するコッターは、

リーダーシップ
組織をより良くするための変革を成し遂げるため、進路の設定、人心の統合、動機付けと啓発を行う
マネジメント
複雑な環境にうまく対処し、既存のシステムの運営を続けるため、計画立案と予算策定、組織化と人材配置、コントロールと問題解決を行う

といいます。

またハーバード・ケネディスクールのロナルド・ハイフェッツ教授はビジネス問題構造を2分して

適応課題(これまでの考え方や解決法ではどうにもならない)
人々の優先事項、信念、習慣、忠誠心を変えなければ対処できない。発見を導くような高度な専門性だけでなく、ある凝り固まった手法を排除し、失うことを許容し、改めて成功するための力を生み出さなければ前に進められない。
技術的な問題(解決方法を見直さなくても問題解決)
かなり複雑で重要な場合もあるが、すでに解決策が分かっており、既存の知識で実行可能である。高度な専門知識、組織内の既存の構造、手続き、実行方法によって解決 目標達成に必要な知識やスキルを身につければ対処することができる

としていて、まさに適応問題にはリーダーシップの発揮が必要だと思えます。

すごくシンプルにまとめれば、「マネジメントは環境の複雑さに対処して既存のシステムを動かすことにあり,リーダーシップは環境の変化に対処して組織に変革をもたらすもの」(日本労働研究雑誌 2015年4月号(No.657) 特集:似て非なるもの、非して似たるもの-管理者(マネジャー)とリーダー 小野善生)ということになるでしょうか。

集団の目標達成に向けてなされる集団の諸活動に影響を与えるはたらきかけや、メンバーの誰かが目標達成できるよう周囲のメンバーに促進的な影響を与えるのもリーダーシップだということもあって、新人でも周りの励みになる行動をすればリーダーシップを発揮しているようにも思え、厳密に分かつのは難しいのかもしれません。

いっぽうで、フォロワーなりのリーダー像に合致する行動にリーダー性を見出す事も知られていて、集団において最も典型的な人物(集団に相応しい行動をとる)がリーダーとして認知され信任を得て影響力を行使できるともいわれ、そのために「リーダーは信頼されることが重要」(リーダーシップ論における中間管理職の二側面 渡部博志)だというのがいわゆる信頼性蓄積理論なのでしょう。

●マネジメントは環境の複雑さに対処して既存のシステムを動かすこと
●リーダーシップは環境の変化に対処して組織に変革をもたらすもの
●マネジメントとリーダーシップは身につけることができる能力

という捉え方がやや支配的なのだそうで、実際にはリーダーシップとマネジメントは補完し合い厳密に分けることは難しいとも思えるものの、ここではそういった解釈をもとにもう少し掘り下げていきます。

リーダーとマネージャーの役割行動と思考

マネジメントは、現行の業務プロセスを維持・安定運用し、効率性を高めるために業務進捗をモニタリングし既知の方法でコントロールする行動であり、いっぽうリーダーシップは、現状の延長では解決できない課題を認識して組織メンバーの先頭に立って解決に取り組む姿勢、という感じでしょうか。

つまりリーダーシップが成立するには

・現状への課題認識
・従来と異なる解決方策
・解決行動の率先
・フォロワーの存在

という要件が必要かもしれなくて、ミッション(目標ではなく目的)をより良く達成するための本質的課題の抽出、解決方法の模索・着想、能動的関与、周囲の巻き込み、いずれも正解のない役割外行動の一種といえそうです。

いっぽうマネジメントの目的は、経営資源を今の業務システムを使ってできるだけ効率よく付加価値に変えることにあるといえそうで、そのため現状の美業務プロセスありきでその非効率を減じながら、メンバーのポテンシャルをいかに発揮させるかという取り組みだといえます。

マネジメントでも業務プロセスの課題解決に携わることはありますが、おおむね組織が学習済の既知問題への対処・業務プロセスの機能維持・回復のためであり、将来のリターンではなく今のパフォーマンス改善のためだといえるのでしょう。

もっともリーダーとマネージャは本来は区別できるのもでもなくて、同じ人材に混在して両方をこなしつつ、役職が上がるほどリーダーシップの比率が増えると考えるのが良いのかもしれません。

リーダーとマネージャ

事業環境や業務環境に一定程度秩序があって安定していれば、マネジメントだけで当座は十分システムを動かすことができ、逆に従来と異なる解決方策を模索するという点でコストの高いリーダーシップ行動は優先度が低いのかもしれません。

日本労働研究雑誌 2015年4月号(No.657) 管理者(マネジャー)とリーダー (小野 善生)が、マネジャーとリーダーの違いについての Zaleznik の主張を引用しているので、それはそれで参考になるかもしれません。

ちなみに、日本経済団体連合会が2012年5月にミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応という報告書をまとめていて、この中でミドルマネージャの役割について
(1)情報関係
情報を経営トップに迅速かつ的確に伝達。目標や経営方針、メッセージを現場に浸透。関係部署との折衝・情報共有、社外の取引先や顧客からの要請への対応
(2)業務遂行関係
2-1.日常業務の管理や組織が直面する課題を解決するもの
部署の目標設定や課題解決に向けた戦略・方針の策定、部下への指示と監督、業務の進捗状況や達成状況の確認、業務効率化の推進、必要に応じた作業方法の見直しなど
2-2.新規事業やプロジェクトの推進、イノベーションの創出
製品・サービスの提供や潜在的なニーズの掘り起こし、既存のビジネスに捉われない新規事業・プロジェクトの企画立案といった、現場発のイノベーティブな提案
2-3.経営のグローバル化などへの対応
海外ビジネスを推進
(3)対人関係
部下の指導・育成と働きやすい職場環境づくり。社外の関係者との連携強化や人脈づくりなど
(4)コンプライアンス関係
法対応や、内部統制、機密情報の漏えい対策、適切な労働時間管理、労働関連法規の遵守、メンタルヘルス対策など
と報告しています。

新規事業やイノベーション、海外ビジネスなどはこのホームページではリーダーの役割という位置づけで考えます。

ドラッカー風に言えば

経営学の父であるドラッカーは、
マネジメントとは物事を正しく行うことであり、リーダーシップとは正しい事を行うことである
といい、また、
効率とは物事を正しく行うことであり、効果とは正しい事を行うことである
とも言っているのだそうで、やはりこの辺りがリーダーシップとマネジメントの区別の落としどころかもしれません。

ドラッカーがマネジメントの概念を提唱した1970年代は、経営というのは出資者に利益還元する上で短期収益を高めるのが良い経営だったから、経営資源を今の業務システムを使ってできるだけ効率よく付加価値に変えることこそが、ドラッカーが考えるマネジメントだったと断定しても差し支えないでしょう。

もっとも近年は、企業の存続とか企業価値などが経営に求められるようになり、マネジメントにもそういう取り組みが求められるようになっているので、それについても後ほど触れる必要はありそうです。

補足

ここでリーダー研究をあらてめて振り返ってみると、行動理論(1940年代~1960年代)、条件適合理論(1960年代~)、リーダーシップ交換・交流理論(1970年代~)など、初期のリーダーシップはいずれも今でいうマネージャ要素の強いリーダー像だったような気がします。

ドラッカーがマネジメントという概念を提唱したことによって、リーダーとマネジメントが分化したのかもしれないですね。

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