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21 人材戦略の全体像を改めて俯瞰する

(2022/09/04)

ここまで20話にわたり、採用業務から人材モデル・コンピテンシーの考え方まで解説してきたところで、ようやくこれからどうすれば効率的・合目的的に人材を運用するか具体的に考えていくことになります。

もっとも目の前の課題を成り行き任せに解消するのでは企業の存在目的を効率よく達成することはおぼつかないので、やはりというかいったんザックリとでも全体設計つまり戦略のアウトラインを描いて、目指すべき方向性とやるべきことを大ぐくりでも俯瞰しておくことが有益だと思うわけです。

企業の存在目的

なぜビジネスをやるのか、というおおもとに立ち戻ると、企業活動とは社会に何らかの価値を提供して対価を受け取る営みで、提供する商品やサービスが魅力のないものだと金銭的価値を認めてもらえないわけだから、ビジネス活動というのは社会になんらかの貢献をする意味合いがあるといえるでしょう。

できるだけ貢献量を減らし受け取りを増やすことが収益上の効率は良いのですが、収益が企業の目的になってしまってお客さん側のメリットを切り詰めてしまうと、そういう企業は遅かれ早かれ企業競争の中で支持を失い排除なり淘汰されることになります。

世間ではときどきコンプライアンスに関わる不祥事が起きますが、利益を求めるあまり企業倫理が消失してしまったケースと言えて、それではそもそも論外というか社会から存在を否定されてもやむを得ないことだと思います。

そういったことを考えると収益を第一目的にするのはあまり賢明といえなくて、社会へ貢献することを企業の存在目的にすえたうえで、いかにより良く貢献しながら支出と収入のバランスをとるかがいわばビジネス上の工夫、戦略をたてる動機なのでしょう。

バランス

目的が組織構成員に周知されていないと各自考えや行動がバラバラになり目的達成できないから、理念やミッションなどのかたちで浸透が図られる必要があります。

目的の重要性を意味付ける価値観や企業文化のような実行環境とあわせ、理念ミッションが浸透尊重されていて初めて、組織の価値創出の共通認識が深まるといえるのではないでしょうか。

お客様第一と経営理念に掲げお題目のごとく唱えるだけでは駄目で、本気でそう思い粛々と実行することが大切です。

全社戦略・経営計画

将来、多くの困難を乗り越え現在よりより良く社会に貢献しているために「どうなっていればよいか/どうなるべきか」「そのために何をすればよいか」考えるのが全社戦略(あるいは企業戦略)で、その達成手順と目標を5~10年のスパンで示すのが経営計画といえるでしょう。

特定の事業だけとか特定の経営機能だけが経営計画実行上のボトルネックになるケースは少なく、通常複数の相互に影響しあう課題があって、バランスを取りながら複数課題を並行して全体最適解決を目指す必要がありますが、その営みは結局は人の能力に依存するわけで、人材戦略は経営戦略のかなめだといえるかもしれません。

とはいっても、やはり他の戦略や施策と連携しないとうまく進まないのも人事戦略で、他の戦略との関係性は戦略マップなどで整理するとわかりやすくなるように思えます。

戦略マップ

人事戦略でしっかり意識したいのはタイムスパン、何年後までを意識しデザインするかということです。

1~2年程度の収益だけを重要視する人は金輪際この記事は読まないと思いますが、そういうビジネスは(戦略というかは別として)先に記事にしたカッツモデルをベースに人材戦略を考える程度でいいのかもしれません。

5~10年の事業優位性を目指すのであれば、経営学を中心とした知見や技能とミッション実現に寄与しうるコンピテンシーをどう組織に定着し発揮を促すか、いかに働く価値観を喚起するか、加えてビジネスモデル運用に必要なエンジニアリング寄りなスキルをどう実装するか、といったエンプロイアビリティ強化の重要性が増すのでしょう。

さらに将来まで配慮するのであれば、長期視点で柔軟性と強い意志と深い洞察に基づく「大計」をもって組織を方向付けしつつ機動的・能動的に環境適応していくため、どう組織の学びを深め環境変化を捕捉し乗じるスキルを獲得し実践するか、その活動と中~短期のマネジメントをどう両立するかが課題になりそうです。

昨今ではビジネス環境もSDGs重視が広まったりして、商品カテゴリーはいうまでもなく、いまの企業文化や価値観、ミッションなど見直す必要はないか改めて考える必要があって、全社戦略の大転換を余儀なくされる可能性も考慮する必要がありそうです。

VUCA環境下の戦略を理解するにはそれなりの前提知識が必要なので、これ以降の記事ではまず、5~10年スパンで競争優位に立つための従来的な戦略の考え方を少し掘り下げます。

人事・人材・組織の戦略

全社戦略・全社経営計画で5年先とか10年先に自社が活躍している将来像つまり目標となるビジョンを決めたら、それを実現するために人事制度、人材、組織はどうあるべきか、なにができるか、そこにどのような道筋で到達すれば効率的か考えるのがいうまでもなく人事戦略です。

※ここでは人事、人材、組織を不可分としておおむね一体的に考えています。

端的に言えば、将来時点で効率的にビジネスできるであろう組織をデザインし、組織に機能を割り当て、大まかにビジネスプロセスをデザインし、成果を出すのに必要な人材のスキル構成を見積もり、人材に最大限貢献してもらうあるべき制度や組織などを想定し、現在のそれと比較してAs-Is/To-be分析をおこない、ギャップを埋める方策を立てることになります。

もっともAs-Is/To-be分析の前提として、今どんなスキルの人材がどのくらい居てどの程度の個人成果・チーム成果を出せているか、自社の人事制度で改善すべき点、・・・などなど明確化・やるべきことは多岐にわたり、まさに膨大なタスクなだけに無駄なく戦略的に取り組む必要があります。

トップダウンな人事戦略を人事業務にブレークダウンするなら、ケースにもよりますが行きつ戻りつしながら大雑把には人事企画(部門構成や人員配置など組織)→人事制度(能力・業績評価、評価制度などルール)→採用→人材育成→労務管理(労働時間管理、給与計算、福利厚生、社会保険、安全衛生、労使関係管理など環境整備)、という取り組み手順になるでしょうか。

セオリー的にはコングルーエンスモデルなどを参照しながらトップダウンに戦略展開するのが正しいのですが、逆引きがコンセプトなこのホームページの記事としては、社内人材のライフサイクルに沿って採用→戦力化→中堅→マネージャ/リーダー→ディレクターという順を追って考察するのが趣旨に沿うと考えて、まず採用に関してこの一連の記事の前半で説明してきました。

コングルーエンスモデル

以降は、網羅しきれないことを細々洗い出すのも読むのもたいへんなので、以下の主だった一般的人事課題について、あまり普及していない応用心理学の知見を踏まえて触れていきたいと思います。

本来は各戦略や戦術の立案時にKPIやKGIを設定し、実行しながらモニタリング・軌道修正することが肝要ですが、以下では詳細は省略します。

ちなみに、これまでもこの記事以降もなのですが、記事に書いたことをそのベースになる理論を理解せず実行しても、効果が無いどころか好ましくない影響を引き起こすこともあるので、くれぐれも素人判断はほどほどでやるなら自己責任で行ってください。

その際は当方は一切の責任を負わないので、ご了承ください。

採用(これまでのふりかえり)

今更ですが、第04話~第14話あたりの採用および離職防止関連記事は、逆引きというコンセプトに沿って戦略的なお話に触れていなかったので、ここで戦略を意識したトップダウンな観点で整理しておきたいと思います。

採用・離職防止は人事戦略のサブシステムで、将来時点で事業目標を達成し目的に近づくために必要な人材の絶対数を維持補充する仕事だと言えます。

したがって、来るべき将来までには新規採用者が業績に寄与できる人材に育つ必要があって、成長ポテンシャルを持ち、かつ自社の存在意義や事業目的に積極的に賛同し、また自社に魅力を見出して一体化しやすい特性の人材を補充する必要があります。

求人するうえでは自社目的達成行動に順応しやすい応募者が抱くであろう仕事への期待感を予測し、彼・彼女の情報収集パターンにフィットして目につきやすく期待を抱き応募動機を掻き立てる募集インフォメーションを設計する必要があります。

採用活動における接触では、当人のポテンシャルが自社ニーズに合致するか適切かどうか適切で根拠のある手段で把握する必要があり、いっぽう企業が選ばれる場であることもふまえ、過不足なく自社理解を促進し期待を形成するコミュニケーションの設計運用が不可欠といえます。

離職のきっかけになるのは新入社員では期待が現実と乖離する場合あるいは組織参加行動へのサポート不足であり、いっぽう組織適応し定着している従業員の離職は心理的契約の不履行の影響が大きいと考えると、いずれにしても戦力として力量を発揮し続けてもらうために、組織参加や戦力化に向けた行動支援や関係性維持をする必要があります。

退職願

以上のような取り組みを長期的視点で体系的に計画・実践・検証・調整するのが採用(+離職防止)戦略といえます。

ちなみに、詳細はのちほど触れますが、本人の特性や仕事への希望と会社が期待する戦力像を適切にすり合わせ、本人が納得できる形でキャリアを実現することが望ましいのはいうまでもありません。

人材育成

採用、定着とくれば次は育成で、第15話~第20話あたりは、人材育成の前哨戦の位置づけでした。

人材モデルとして以前エンプロイアビリティに触れたところですが、以降では3階層の能力のうち知識・技能などの顕在的な特性いわゆるハードスキルの強化について考えていきたいと思います。

コンピテンシーや価値観などの強化手法も心当たりはあるのですが、科学的な有効性検証ができているわけではないので、ここでは触れることは差し控えます。

人材育成という人事機能の目的は、いうまでもなく組織メンバーの能力を必要な時に必要十分に発揮可能なレベルに増強することにあり、知っていたり能力があっても発揮できなければ意味がないでしょう。

経営環境は日々変化し組織やメンバーのスキルそのものが市場ニーズから乖離していくし、長期間勤務しスキルを蓄えたメンバーもやがて組織を離れていく時が来るわけで、それでも組織はより良く存在目的を果たしていくことが求められるので、たゆまぬ人材の成長を仕掛ける必要があります。

そうはいっても、人材育成の成果が具体的な経営貢献行動に現れるためには、職場環境要因、人材本人の心的・技量的要因、育成手法や内容の要因といった複数の要因の影響を受けるのだそうで、まさに戦略的に取り組まなければ功を奏することはおぼつかないのです。

以降は技能修得にかかわる教育研修設計や、その実効性を高めるためのキャリアサポートや研修サポートなどについて考えます。

人事企画

人事企画とは、一般的には部門設計や人員配置・採用など本来は組織化に関する業務のことらしいのですが、社員のもつ能力を引き出すうえで誰もが悩む、チームマネジメント、リーダーシップなどについて産業組織心理学の知見を踏まえて考えてみたいと思います。

ちかごろだいぶ理解されるようになってきましたがマネジメントとリーダーシップは別物だし、リーダーシップは状況によって最適な役割が異なります。

リーダーでなくてもリーダーシップは必要だったりするのも、リーダーシップというものを理解しにくくしている原因かもしれません。

人事制度

人事評価と人事考課は違う取り組みなのだそうで、ここでは給与や昇進を判断する考課も少し念頭に置きながら、主に育成や能力開発など評価の考え方、具体的には誤解されがちな目標管理制度の運用などについて考えます。

人材育成の有効性を高め人材育成の成果が具体的な経営貢献行動に現れるうえで、人事評価は非常に重要な要素といえます。

労務管理

近年の働き方改革のあおりを喰らって重要性が増していそうなのが労務管理で、よりよく実施するために従来の管理の考え方を見直す必要がありそうで、具体的にはリモートワークマネジメント、メンタルマネジメントといったテーマについて触れます。

ワーケーション

組織開発

組織開発はある意味人材と相互に影響を与え合っていて切って切れない関係ではあるのですが、働きかける対象が個人ではないということがあって、人材戦略とは別建てで考えたいと思います。

取り扱うテーマとしては組織学習や組織変革など、会社の将来のための課題解決になります。

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