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17 人材育成で目指すべき人材像/近代的人材像

(2022/07/31)

カッツモデル以降に提案された人材モデルは、なぜかほとんど見当たりません。

いろいろネットを調べても多くが古すぎるカッツモデルを妙にいまだに引用していて、新たなモデルとして見出せたのは厚労省のポータブルスキルや経産省の社会人基礎力といった転職想定のスキルセット、あるいは国際団体ATC21sが提示した21世紀型スキル、くらいしかないのです。

社会人基礎力

※文部科学省版21世紀型スキルというのもありましたが、これはどちらかいうと学校教育指針のような位置づけですし、ITSSPとか特定業種のややエンジニアリング寄りなスキルセットは無論いろいろ開発されているようではあります。

これら新しく提唱されたセットはいずれもどちらか言うと〇〇力といえるような抽象的な思考行動特性を扱っていて、具体的に何をどう学べば習得できどう実務能力と関連付けられるのかどうも漠然として、整えるのになかなかてこずりました。

正しくまとまったかどうかは心もとないのですが、手がかりになったのはやはりカッツモデルでした。

注)ちなみにこのホームページで「近代的人材像」とか「古典的人材像」と言っていますが、古典的や近代的は歴史的に古いというほどではないもののVUCAな世の中になる前の頃、くらいの意味で、モデルの識別のためくらいの意味でしかありません。

カッツモデルの本質

カッツモデルは先に紹介したように1950年代にロバート・L・カッツが提唱しましたが、実は当時、世の中にまだ経営戦略という概念は生まれていないのです。

※経営戦略という言葉がはじめてつかわれたのは、1962年のチャンドラーの著書「経営戦略と組織」のタイトルらしいです。

なおかつ昔のアメリカで考えられたモデルなので、後世というか近頃になって誤解加筆された解釈が広まっていますが、実は人材育成とか今でいうところの人材開発や組織開発などの概念は考慮されていないのです。

※当時の米国人上司はおおむね一般的に部下を育成したら自分の仕事が奪われると思い込んでいて、上司が部下を育成する概念はなかったようです。

つまりカッツモデルは、せいぜい1~2年の短期収益を確実にするための、マネージャ本人が自身のタスクを適切に成し遂げるために必要なスキルを整理提唱したものでしかないと考えるのが順当だと考えられます。

昨今の人材モデルが目指すべきもの

それからすでに半世紀以上が過ぎて、一般的に5年程度の中長期計画・経営戦略の達成を目指し競争優位を目指すのが企業経営の主流の考え方になったわけですが、VUCAが始まるまでの50年の間に考案された多岐にわたる経営手法はおしなべて、中長期の経営目標を達成するために考案され体系化された知見だといっていいでしょう。

それらをひとくくりにすると経営学ですが経営学に属する知見は「中長期の競争優位を実現するために組織またはその構成員が具備すべき」ノウハウの集大成であるといえそうです。

書籍

正確には経営学はあくまで知識であり、これに実践力とか応用力が伴って初めて役に立つので、知識と実践能力をあわせて技能ないしは実践的方法論というべきではあります。

経営学の知識・実践応用力は、必ずしも組織構成員全員が完璧に習得していなければならないものでもなくて、組織として必要十分に実行できれば足りるものでもあります。

しかしおそらくかなり多くの企業は経営学の知識と実践応用能力を必要十分に具備しておらず、少なからず自己流でアドホックあるいは理論的根拠に乏しい経営活動になっていて、ゆえに中長期経営計画あるいは経営戦略を不完全にしか立案実施できないのだろう、というのが自分の認識です。

いっぽうでカッツモデルが示したスキルは、組織のマネージャー各自がそれぞれ身につけていないと本人の業務成果が出せないという点で、中長期経営計画や経営戦略の時代であってもそれはそれで各自に必要な能力だといえそうです。

エンプロイアビリティで整理する

さてそれでは、ポータブルスキルや社会人基礎力といった各種の〇〇力については、どういう位置づけで考えればうまく整理できるのでしょうか。

実は従業員の仕事能力の概念として、エンプロイアビリティというものがあります。

エンプロイアビリティとは、詳しくはもう少し後で考えますが労働市場における実践的な就業能力を意味する言葉で、Employ(雇用する)とAbility(能力)を組み合わせた造語であり

(1) 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
(2) 協調性、積極性等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性にかかわるもの
(3) 動機、人柄、性格、信念、価値観などの潜在的な個人的属性に関するもの

の3階層の能力からなるとされています。

昨今では一緒くただと混乱するからか、「特定の知識・技能などの顕在的なもの」はハードスキル「思考特性や行動特性にかかわるもの」はソフトスキルと呼び分けられていることもあるようで、そういう識別のしかたでもいいでしょう。

エンプロイアビリティ

ちなみに人材採用に当たっては、(3)の項目については個人的かつ潜在的な要素であり、評価対象として測定することは困難であって、エンプロイアビリティの評価基準は(1)と(2)の要素を対象として作成すべきである、というのが厚労省の主張です。

でもスターバックスが求職者を採用する際には、自社の価値観と同じベクトルを持ち「何かを成し遂げたい」と思っているような人材を積極的に採用することは前の記事で説明した通りで、動機や価値観を確実に評価できるのであれば、採用選考で考慮する価値がありそうです。

少しでも自社の価値観と同じベクトルを持つ新入社員であれば、それを手掛かりに自社の価値観への共感形成を強化しやすそうだからです。

さてカッツモデルをエンプロイアビリティに当てはめるとテクニカルスキルは顕在的な知識技能だから(1)に、コンセプチュアルスキルは思考特性だと考えて(2)に、ヒューマンスキルは (1)寄りの(2)に該当しそうな感じですし、経営学の知見は(1)、経営学の実践応用力は(1)ないし(2)、ポータブルスキルは仕事手順とヒューマンスキルと解せそうだから(1)と(2)の間あたり、社会人基礎力は(2)の位置づけになりそうです。

エンプロイアビリティという枠組みで整理すれば、いろいろと提唱されている知識や技能や思考行動特性、潜在的な意識を3層構造に共存させられて、なんとなくおさまりがよさそうです。

ちなみに、個人の思考特性や行動特性であって優秀な業務成果につながりそうなもののことを特にコンピテンシー(Competency)と呼んで、社会での競争に打ち勝てる能力とかハイパフォーマーの行動特性という意味で使われます。

注:コンピテンシーは、技能レベルのコンピテンシー(好業績者が共通してとる類似行動)を指す場合もありますが、ここでは〇〇力の発揮に相当する思考行動特性のことをコンピテンシーと考えます

その企業にとって好ましい〇〇力の発揮のさせ方のことをコンピテンシーというものの、どの〇〇力をどう発揮するのが良いかはビジネスモデルや事業環境により異なります。

エンプロイアビリティ2.0

ここで改めてカッツモデルをエンプロイアビリティ1.0だったと考えると、かつてコンピテンシーを求められるのは中~上級のマネージャだけだったものの、現代では一般社員でも、担当業務を適切におこなう技能に加え一定のコンピテンシーが求められるようなエンプロイアビリティ2.0のご時世になっているといえるのでしょう。

さてどうすればエンプロイアビリティ2.0を身につけられるか、そして (3) 動機、人柄、性格、信念、価値観など、はどう考えればよいのか、それはのちほど触れるとして、中長期計画・経営戦略の立案さえままならなくなってきた昨今人材育成はどうすればよいか、さらに考えていきたいと思います。

注:エンプロイアビリティ1.0とか2.0も当ホームページで区別のために便宜的に使っているだけで、一般的な用語ではありません。

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