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16 人材育成で目指すべき人材像/古典的人材像

(2022/07/31)

一年の計は穀を樹うるに如くは莫く、十年の計は木を樹うるに如くは莫く、終身の計は人を樹うるに如くは莫し。一樹一穫なる者は穀なり、一樹十穫なる者は木なり、一樹百穫なる者は人なり。(管子權修)

ということわざがあります。

一年の計画を建てるならば、年内に収穫のある五穀を植えるのがよい、十年の計画を建てるならば、樹を植えるのがよい、一生涯の計画を建てるならば、人を育てる(=人材育成)ことである。一を植えて一の収穫があるのが穀物である、一を植えて十(=十倍)の収穫があるのが木材である、一を植えて百の収穫があるのが人材である

という意味なのは先刻ご承知だと思いますが、人材育成はまさに一生涯のスパンで考えるべき戦略的な営みといえるでしょう。

前の記事で触れたように、人材版伊藤レポートは経営戦略を実現し企業価値を向上するために、人材戦略が必要だけれど十分に実施できていないと指摘しています。

ちなみにやはり前に書いたように、ジョブ型採用には少なからず根本的に課題があると思えるところもあり、このホームページでは功罪はあるものの、終身雇用など日本型雇用をうまく改善し使いこなしていくという立ち位置で考えています。

人材育成の戦略性とは

さて、ネットや書籍で人材育成に関する戦略について調べると、おおかたは経営戦略へ準拠する必要があると書かれていて、しかしこれがそもそも少なからず浅い主張に思えるのです。

たしかに、当面の重点経営テーマである経営戦略を実現するための力量をもつ要員は必要には違いないですが、長期経営計画が一般的にせいぜい10年程度、普通中期経営計画が3〜5年だと考えると、経営戦略は業界にもよるでしょうがせいぜい長くて10年くらいの賞味期限しかありません。
しかも近頃は、トヨタ自動車が自動車製造販売から移動ソリューション提供に存在意義の舵を切ったように、ミッションさえも変わりうる時代になっています。

むかしの人が一生かかると言い切っている人材育成を、いくら世の中がせわしなくなっているからと言ってたかだか10年ほどで取り組んで人材を使い切るというのはちょっと拙速な気がしないでしょうか。

戦略期間が終わったら育成された人材はどうなってしまうのか、育成方針は手のひらを返したように変わってしまうのか、そもそもたかが10年で人はどれほどの成長ができるのか、少なからずモヤモヤしていたのですが、カッツモデルというマネジメント人材モデルを思い出し、それをヒントにちょっと整理ができた気がしました。

カッツモデル

アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツが1950年代に提唱したカッツモデルは、マネジメント層(ロワー/ミドル/トップ)に必要な能力を階層ごとに少しずつ重複しながら定義しており、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3種があるとしています。

カッツモデル

下級管理者あるいは監督者にあたるロワーマネジメントにとって重要な能力はテクニカルスキル、部下が担当している業務を問題なく遂行させるために必要な業務そのものについての深い知識やスキルです。

いわゆる中間管理職といわれる主任や課長、部長など、上層部と現場の橋渡しをする役割であるミドルマネジメントにとって重要な能力は、社内外のあらゆる関係者と円滑な意思疎通をはかり、良好な人間関係を築くヒューマンスキルです。

経営状況の実態を把握して意思決定を実行する社長やCEOといったトップマネジメントにとって重要な能力は、目の前の状況や情報を客観的に分析し、その本質をとらえて最適解を見出す概念化能力であるコンセプチュアルスキルで、組織が総合的な成功を収めるために最も重要なスキルです。

さてこの3種のスキルを経営戦略に準じた人材戦略という観点から見ると、中期の経営戦略に準じ同期する必要があるのはテクニカルスキルの実装部分であり、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルは戦略とはほぼ無関係に本質的で基盤的なスキルだから、テクニカルスキルのおおもとの基礎技術も含め、たとえ戦略が変わっても普遍的でまさに生涯かかって伸ばす必要があるスキルだと言えそうです。

注)むろんテクニカルスキルの根幹部分であっても、蒸気機関とかITといった産業革命級の技術革新が起きたら過去のものになります。

いいかえれば、基盤的スキルは普遍的に有用だけれど、アプリケーションや実装方法は方針によって使い分けときには使い捨てになるといっていいかもしれません。

一般的に、テクニカルスキルは各種訓練によって組織内部で育成されていくものであり、育成の計画や育成度合いの可視化が容易なことが特徴だといわれます。

研修

ヒューマンスキルは、テクニカルスキルとは性質が異なり、可視化や数値化が難しいスキルであり、組織で計画的な育成を試みようと思っても困難で、カッツはケーススタディやロールプレイングで育成できるといっているそうです。

コンセプチュアルスキルに関してカッツは、当初は上司によるコーチングやジョブローテーションで育成できるといっていましたが、その後「人生の初期にこの思考方法を学ばない限り、経営者の地位に到達するに当たって大きな変化を起こすのを期待することは非現実的である。(略)この意味で、コンセプチュアルスキルは生得の能力と見るべきものであるかもしれない」と訂正したそうです。

最近はそれなり効果的な学習手法も開発されているのでそれは後々触れるとして、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルは長期涵養型の基盤スキル、テクニカルスキルの実践部分は都度リフレッシュ(昨今でいうところのリスキリング)が必要な使い捨て型のスキルと整理するのがいいかもしれません。

カッツモデルも古さが否定できない

そうはいっても提唱されて半世紀以上たつカッツモデルは、現在でさえ不十分にしか実行できていない教訓ではありながらも、前提となるビジネス環境が古すぎて現在のビジネスには到底追従できそうにありません。

現代の人材モデルはどう考えたらよいのか、カッツモデルと共存しうるのか、ほかのスキルモデルなども参照しながらさらに考えていきたいと思います。

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