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13 コミットメントはまさしく人の城

(2022/06/26)

従業員特に中堅ベテランの離職防止の観点からはコミットメントは高いに越したことはないのですが、離職防止のためにコミットメント強化したいというのはどうも本末転倒な気はします。

さりとてコミットメント自体は産業組織心理学でも重要な概念なので、すでに触れたように継続(存続)的コミットメントはむしろ会社にとってあまり好ましくない感情だし、義務感や固定観念にちかい規範的コミットメントは組織に対する忠誠心を強調するような教育研修を経験すれば養成されるので割愛して、情緒(感情)的コミットメントについて強化のしかたというよりはどのように醸成されどういう影響がありそうか確認します。

まだ科学的に十分検証された研究が出そろっているとは考えづらい類似概念のエンゲージメントについては、現時点で触れることは差し控えたいと思います。

コミットメントの後続要因

従業員が会社に情緒(感情)的コミットメントを持つことで

・感情的情緒的な愛着が組織への同一化や一体感を生む
・離職の抑止
・役割外行動(組織市民行動)
・規則順守や勤勉さ
・ストレスや仕事と家庭の葛藤を抑止
・活気や活力が高い組織は情緒的コミットメントが高い

などの特徴があることが知られており、いっぽうで

・情緒的コミットメントと収益の間に有意な関係はなさそう
・変革が必要な時には(強すぎるコミットメントは)抵抗になることもある

といったことも研究で明らかになっています。

ちなみに役割外行動に関して高石らは、経営革新促進行動に関する研究─職務自律性の影響過程について─(産業・組織心理学研究2009年,第23巻,第1号,43-59)で、従業員の経営革新促進行動にコミットメントの強い影響があることを実証しました。

経営革新促進行動とは成員の自発的行動で,組織の新製品や新生産方式の開発,または新規市場の開拓などの経営革新の推進に寄与する行動であり,組織の革新に寄与する行動としての(a)問題発見と解決行動、(b)重要情報収集行動、(c)顧客優先行動、(d)発案と提案行動および、組織の維持と発展に寄与する行動としての(e)精勤行動、および(f)組織と周囲支援行動 からなるのだそうです。

経営革新促進行動の最大の誘因は職務自律性だそうなのですが、コミットメントの強さが企業の長期的発展もしくは環境適応生き残りに深く関わっていることが示唆され注目すべきでしょう。

組織に対する愛着や同一化度合いの強さがすなわち情緒(感情)的コミットメントなので、従業員のコミットメントが高まれば精神的な一体化も進んで、ある意味「人は石垣、人は城、人は堀」という状態に近づくでしょう。

大阪城

もっともその状態をいかに会社の存在意義のために活かすか適切な戦略設計ができていないと、強化されたコミットメントはほぼ宝の持ち腐れで従業員の社会的欲求を満たす以上の価値がなくなってしまいます。

解決すべき経営課題は何でそれには従業員のどのような行動と意識を強化する必要があって、そのための影響因子としてコミットメント含めどのような内部要因に対策を講じればよいか、科学的体系的なサーベイと正しい知見を踏まえて考える必要があります。

情緒的コミットメントの先行要因

コミットメントを高める効果があると認められているのは直接的には仕事を通じた充実感や意義感の獲得であって、そのためには
・自律性やスキル多様性
・自分の有能性
・組織内での自己の重要性
・職務の意義や達成感

等を感じられる業務設計が重要だとされます。また、

デスクワーク

・強い組織文化や経営理念の浸透、価値の共有(仕事の意義の認識)
・積極的な人材育成やキャリア開発(スキル充実による自信や有能感の醸成)
・上司との関係性改善(フィードバックによる職務への自信強化など)
・昇進機会(有能さの承認行為として)
・役割明確化、自己効力感、社会的受容による組織適応(一体感の醸成)
・経営者への信頼が高まること(適切にやりがいのある仕事を提供してくれる)
・組織内での経験と期待の一致による欲求充足

等もコミットメント強化に効果的に働くことが知られていて、これらは有能感・重要感・意義や達成感を強化するために必要な要件といえそうです。

ここで、ハックマン・オルダムが唱えた動機付けに関する職務特性理論

有意義感(技能の多様性+職務の完結性+職務の重要性)÷3
×責任の実感(職務の自律性)
×フィードバック(結果の理解)
=MPS(Motivating Potential Score:内発的動機付けスコア)

を思い出すと、内発的動機付けに寄与する業務要素はおおむね同時にコミットメントをも高める、つまり自ら動機を膨らませて業務に従事し実際にそれに成功するとコミットメントが高まる、ということにも思えます。

※職務特性理論については、後ほど少し詳しく説明します。

注)ハックマン・オルダムの職務特性理論は本人の成長欲求が高い場合に成立するものの、そもそも成長欲求が低いとあまり適合しないそうです

その反面、組織の大規模化や中央集権化はコミットメントを弱めるのだそうで、自己重要感や裁量が縮小し、分業化による達成感や完結感の希薄化などが影響するのかもしれません。

コミットメント強化プロセス

ここではコミットメントを強化する要素について産業組織心理学の知見をやや戦法的に説明しましたが、くどいですがコミットメントを強化するのが目的化するのは少々お寒い話で、本人がより良く仕事に取り組めるような配慮がされて、本人の自発的モチベーションをうまくサポートし成功体験を積ませることで、より良く仕事ができるようになる結果としてコミットメントが自然と強化され離職が抑制されるのです。

逆に言えば、コミットメントが低くて離職傾向が強いとしたら、普段人材マネジメントをおろそかにして本人の意欲や可能性をそいで潰しているということでしかないのかもしれません。

コミットメントやその後続要因・先行要因が適切な水準かどうかは、くどいですが設問の重複欠落あいまいさのない、正しい判定ができる科学的に正しいサーベイを設計実施することが重要です。

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