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09 貴社の採用面接選考では人材を見抜けない

(2022/06/26)

求職者を選考するのはおそらく、人事の仕事の中でも最もストレスがかかる仕事のひとつでしょう。

会社の未来を背負って立つ人材か、ぶら下がってお荷物で終わる者か選別しなければならないプレッシャーのかかるタスクで、一般的に好まれるコミュニケーション能力が高い人が本当に好ましい人材かどうかはともかく、どう人選するのがよいか考えてみたいと思います。

もっとも、応募者と会社が初めて本格的にコミュニケーションする選考前後の場面は、同時に会社が応募者から選考される、端的に言えば値踏みされる場面でもあることを肝に銘じる必要があります。

面接試験の信頼性は低い

「政経研究第55巻第3号 日本企業における新卒採用基準の実態と問題点(谷田部光一 2019/02)」は、
・何をやっても完璧な人はいないのと同様に何をやってもすべて駄目な人もいない、入社後の状況は採用時の判断ミスよりは採用後の人材育成や配置のミスに起因する
・採用後の人材育成や能力開発、業績貢献の成否も、採用時点の能力・適性検査ですべて決定されると考えられがちだが、可変的である
と結論していて、そのうえで「面接試験が採用選考プロセスにおいて重要な位置づけ」でありながら「再現性や信頼性は適性検査では高く、構造化されていれば面接でも妥当性があるが、非構造化面接の妥当性、再現性、信頼性は低い」と指摘します。

誰を採用しても成長させることはできる、しかしながら企業の採用選考は面接試験が中心になっているがよほど適切に実施しない限り無意味である、と言っているように思えます。

面接試験

しかしこの研究で採用選考や能力開発の成否とその後の業績貢献の関係を科学的に追跡調査できているとは読み取りにくいし、やはり入社時点でポテンシャルが高かったり社風や仕事と反りが合う傾向の人材は、能力開発が効果的効率的につまり会社にとって低コストでスムーズに行える可能性は否定できないでしょう。

ちなみに面接試験に関しては産業組織心理学に多数の研究成果があって、構造化面接に比べて非構造化面接は業績予測精度の妥当性が低い、つまりあまりアテにならないことがほぼ常識になっています。

選考基準を精査する

選考基準にはいろいろな切り口があって、どんな判断基準を採用するか、どういう試験手段で判断するかは会社の考え方次第です。

一例として、人材育成でしばしばベンチマークされるのがスターバックスですが、同社はそもそも

「商品・空間・パートナーのサービスを要素としたスターバックス体験」が商品
「人々の心を豊かで活力あるものにするために/一人のお客様、一杯のコーヒー、ひとつのコミュニティから」がミッション
「私たちはパートナー、コーヒー、お客様を中心としvaluesを日々体現します
・お互いに認め合い誰もが自分の居場所と感じられるような文化を作ります
・勇気を持って行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。スターバックスと私たちの成長のために
・誠実に向き合い、威厳と尊厳をもって心を通わせるその瞬間を大事にします
・一人一人が全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます
私たちは人間らしさを大切にしながら成長し続けます」
というのがバリュー、すなわち価値観
にあたるでしょう。
スターバックス公式ホームページ our mission and values

スタバ

これらの価値観と同じベクトルを持ち、「何かを成し遂げたい」と思っているような人材を積極的に採用するのだそうです。

価値観と動機のほかにも選考基準は用意されてはいるでしょうが、達成すべきミッション、それを具現化する商品、商品提供にあたり持つべき信念、同じ価値観を持って入社しそれに共感を深める従業員、と一貫性があって選考理由もポリシーも人材像もはっきりしていることがわかります。

理念~ミッション~ビジョン~経営戦略~人材戦略~採用選考に一貫性があることは非常に重要、というか、ミッションを実現するため人材戦略が理念ミッションに準拠すべきなのは当然といえば当然です。

逆に言えば、同じ業界の採用選考であっても価値観やミッションや戦略は会社によって異なるから、業績の良い会社の選考基準を真似しても無意味だということでもあります。

むろん即戦力採用なら実務スキルも気になる所でそのための客観的評価尺度は必要だし、かつやはり価値観に加えて能力や思考の傾向は把握したいところです。

たとえば、キャリアに対する価値観や欲求(起業家傾向が強い、社会貢献したい、仕事に安定を求める、など)や、個人の仕事の志向性(技術志向、学者肌、芸術系、経営者タイプ、など)は比較的仕事との適合性の目安になりそうな気がするし、従事する職業に求める価値ニーズ(自己成長、達成感、社会的評価、経済的報酬、など)は本人の満足感ややる気につながるかもしれません。

〇〇力と呼べる各種の能力では、主体性、働きかけ力、実行力、課題発見力、計画力、創造力、発信力、傾聴力、柔軟性、問題解決力、知識獲得力、組織的行動能力、、、といろいろあって、とはいえミッションや戦略や職務を達成するために必要な能力は業務によって異なるし、その能力を伸ばす難易度も伸ばす方法論もさまざまです。

潜在的に〇〇力を持っているだけでは駄目だから、それをいかに発揮できるか過去の実行実績を問うような選考も考案されています。

キャリアに対する価値観や欲求、個人と仕事の適合傾向や職業に対する価値ニーズ、また〇〇力といったものを定量評価するアセスメントツール類などは、いろいろなところで開発され提供されているようですが、心理学にパチもんが少なくないように、よほど適切に設計された科学的裏付けのあるツールでないと正しい判定をしてくれないことに留意が必要です。

どういう人材が自社に必要なのかよく検討したうえで、公的研究機関や大学などで開発され科学的根拠のあるアセスメントのサービスやツールを探し、もしくは信頼できる専門家に相談するなどして、自社に適した良い人材を見出す手段を探してください。

ちなみに労働者のキャリア発達に関しては2通りの考え方があって、個人特性と仕事特性の不変固定的な適合から考えるのが内容理論で、個人の興味や価値観の発達や環境変化によって適合度は変化すると考えるのが過程理論です。「計画された偶発性理論」のような過程理論の考え方が、現在どちらかいうと支持を集めている考え方なようです。

少し気に留めておいていいかもしれません。

学歴フィルター問題

ひとこと補足しておいてよさそうなのは学歴フィルター問題で、特に大企業あたりだと高学歴な応募者を好むことが少なくないように思えるのですが、自分は必ずしもそれが不適切だとは思っていません。

会社に入ると数限りなくいろいろな問題課題が本人に降りかかってくるわけで、それらを自力で解決できる能力が見込めるか否かは重視して当然の採用判断基準だといって差し支えないでしょう。

大学というのはそもそも、過去に人類が解決した課題の解き方を後世に残し普及するために設立されたといいます。

本人が学校で課題解決の方法を適切に身に着けたかどうかは別の問題として残りますが、学歴が高いと計算上は課題解決能力は強化されることになるので、勉強に時間を割いていない人材よりは課題解決力のポテンシャルが高い傾向があるはずだと考えるのはいたって順当だと思います。

知識偏重の詰込みもしばしば問題視されますが、数を数えられないと足し算はできず足し算ができないと掛け算は理解できないように、新しい知識を習得するためには必ずそれを理解するための前提知識が必要であって、知識の絶対量が少ないと学べる能力自体も脆弱でしかないと考えれば、知識は多いに越したことはありません。

この一連の記事も、理解するための前提知識が豊富な閲覧者と、人事や心理学や経営学の知見の乏しい閲覧者では、目で追っている文章は同じでも気づくことは天と地ほどに違うはずです。

注)高学歴なのとそれに見合う学びができているかどうかは全く別の問題なので、学歴フィルターや詰め込み教育を肯定しているわけではありません。

入社後の施策との連携

あれもこれも欲張ってはどんどんハードルは上がり合格者が減って判定が複雑化してしまうので、本当に自社に欲しいのはどんな特性か絞り込み適切に重みづけするのも重要で、でもそれが入社後活かせないと意味がないから、いかに強化し発揮させ実務に活用するか採用後のいわゆる人事評価制度やキャリア設計に適切に引き継ぐ必要があります。

昨今ではジョブ型採用が注目されていますが、大企業と違って一人の社員がフルに働くだけの専門タスクニーズが将来にわたってあると限らないのが中小企業です。

人材の特性の適否もあるのですが、大企業と違いいろいろな業務を組織横断的にやらざるを得ない、逆に言えばいろいろな仕事の内容を理解したうえで全体最適的な業務に取り組める可能性がある、という中小企業のある意味アドバンテージを活かせるような人材の採用、それをやれる人材戦略を考えるべきではないでしょうか。

これについては後ほど、少し詳細に触れたいと思います。

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