人材戦略トップ
シェア

05 求人求職のカスタマージャーニー

(2022/05/29)

企業が人材拡充を考えた時にまず直面するのが、募集しても反応が少ない・いい応募がないという問題でしょう。

たとえば仙台の2022年1~3月の有効求人倍率は1.34倍~1.37倍で、仮に求人求職が完全にマッチングできたとしても4社に1社は採用することができないわけだから、実際にはもっと多数のすれ違いがありそうです。

求人力が弱いということは、いうまでもなく欠員が生じても補充がきかない、残る従業員の負担が増えて離脱者が増え悪循環になりかねない、組織の人的リフレッシュが進まず組織健全性維持が困難になる、ましてやいい人材をとるのは並大抵ではない、といった問題を引き起こします。

いい応募者をどう集めるかは次の記事で考えるとして、まず応募数を確保しないことにはにっちもさっちもいかないので、ネットや書籍であたかも応募が殺到するかのように書かれた解説記事も出回っていてあえてここで説明するほどでもないのですが、求人情報発信の戦術的な強化について触れておきます。

求人情報が求職者に認知されるメカニズム

昨今は求人情報をインターネットで探すことも少なくないご時世、そのなかでももっとも求人・求職とも情報が多く実績もあるのは言うまでもなくハローワークインターネットサービスでしょう。

ネット検索

職種や求職者のセグメント、地域などによっては他の媒体が向いている場合があり、新卒採用では学校が求人仲介することも多いですが、求人情報の設計の重要性は変わりません。

ハローワークは良い人が見つからないと開き直る経営者もいますが、求人の仕方に改善の余地が多いのです。

ハローワークインターネットサービスの場合、求職者は勤務地域とか職種とか希望条件で人材募集情報を検索して、該当する記事の一覧から案件を選んでさらに詳しい求人情報を比較検討します。

ここでもし、一覧の中に貴社の求人情報が入っているのに、求職者に気づかれなかったとしたらどうなるでしょうか。

求職者にとって貴社が求人していることを知るチャンスは、このリスト記事に気づくかどうかにかかっていて、貴社の求人記事に目が留まらないと求職者に認知される機会はほぼ皆無となり、もはや応募されるのは絶望的です。

見比べ

ハローワークインターネットサービスに限らず、検索一覧で気づかれるかどうかが、応募を獲得できるか最初で最大の難関だといっていいのです。

少し古い調査になりますが、(独法)労働政策研究・研修機構が2012年に「労働政策研究報告書No.147 中小企業における人材の採用と定着」という調査報告を出していて、その第一章で求職者はハローワークインターネットサービスで求人票や求人一覧のどこを見て、どんな要因で応募に前向きになったり躊躇したりするか、求人情報に対する改善希望などを調べてまとめています。

これによると、まず求人一覧で注目するのは職種(100%)、就業場所(41.46%)、雇用形態(26.83%)、産業(21.95%)、賃金(19.51%)、求人詳細画面では仕事の内容(43.90%)、賃金(39.02%)、職種(31.71%)、事業内容(26.83%)、就業場所(24.39%)、雇用形態/就業時間(21.95%)、PDF求人票では仕事の内容(90.24%)、賃金(39.02%)、就業時間(34.15%)、就業場所(24.39%)、職種(19.51%)、雇用形態(17.07%)だといいます。

また応募に前向きになる要因として求人詳細画面では仕事(51.22%)、就業場所(21.95%)、雇用形態(17.07%)、賃金/職種(12.20%)などだそうです。

つまりまず求人一覧で目に留まった職種や就業場所の情報によって、詳細を閲覧するか否かがほぼ決定する、逆に言えばそこそこいい条件であってもこの情報の記述が目立たなかったりあいまいだとそれだけでスルーされ二度と顧みられなくなる可能性が高くなるといえるでしょう。

応募に前向きになる要因として賃金は意外と優先度が高くなくて、やはり仕事の内容が注目されるようです。

逆に応募に躊躇する理由のトップも仕事の内容(58.54%)で、仕事の内容に興味がない、自分に合っていないことなどが理由になっていて、一覧表示でも詳細情報でもいかに適切かつ魅力的に、仕事の内容を際立たせるかが勝負といえそうです。

職場環境や職場の雰囲気、仕事の内容などはもっと詳しく知りたい情報だそうで、虚偽を書いてはダメですが丁寧に記述することで応募に安ど感が高まりそうです。

ハローワークの求人情報は往々にしてほかの求人媒体からも参照されるうえ、ハローワークへの出稿は企業負担無料だし、いろいろ改善工夫をする実験環境として使う価値もあります。

注:労働政策研究報告書 No.175 転職市場における人材ビジネスの展開(平成 27年4月 独法労働政策研究・研修機構)によれば、企業規模が大きくなるに従い求人情報(求人広告など)の割合が高まり、小規模になるほどハローワークの割合が高まるといった相補的な関係があるそうで、うまく使い分ける必要もあります。

求人情報の戦術的補完

もっともどれだけ求人情報を改善して詳細情報閲覧までこぎつけても、人は見たり聞いたりしたことのないものへの心理的抵抗は大きいのだそうで、求人票で気になった会社をインターネット検索してもほかに何の情報も得られない謎の会社だと、応募をためらうことは想像に難くないでしょう。

見つからない

その点、今どきホームページがない会社は、はっきり言って存在しないも同じです。

最低限自社のホームページの内容を慎重に充実し定期的に更新もして、できれば業界団体や地域団体など第三者のホームページの記事になる工夫、顧客のホームページやブログのクチコミ記事になる工夫、SNSによる普段からの情報発信など、求職者がいつでも多面的多経路で企業のことを知ることができるよう、常時求職者目線に立った情報発信を継続しておくことが肝要です。

とはいえSNSは運営会社が意図的に配信をコントロールするうえ意図しない情報拡散や炎上も制御できず、かならずしも発信者が想定していた情報発信結果が得られないリスクは認識しておくべきです。

IT人材や介護福祉、建設業など人手不足が顕著な業界の求人だと、求人情報の記述の仕方だけでは応募が改善せずもう一工夫が必要かもしれませんし、応募が多すぎても対応コストがかかりエネルギーが分散するので、量より質も意識しておきたいところです。

求人記事やホームページコンテンツは、どのくらい反応があったか定期的にチェックして、どうすればもっと良い応募を呼び込めるか改善の検討を継続することが肝要です。

特にホームページに関しては、いったい誰に情報発信しようとしているのか曖昧なサイトが多くて、消費者向けなのか、出資者向けなのか、求職者向けなのか、など訴求したい相手によってコンテンツを最適化しないと逆にイメージ悪化することもあることを理解してください。

もはや求人数よりも求職者の方が少なく求人側で奪い合う売り手市場、漫然と求人していたのでは求職者の目に留まる事すら容易でなくなっていくでしょう。

積極的に求職者の行動や思考やニーズをカスタマージャーニーの如くに予想し、自社の求人の認知・検討・応募への誘導シナリオを設計していく必要があるのです。

記事の目立たせ方というより、いい人材を魅了しうる募集コンテンツをどう作るか、次の記事以降で考えてみたいと思います。

ページのトップへ戻る