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02 エンゲージメントはまゆつば物なのか

(2021/12/30)

昨今では収益性の改善効果があるという触れ込みで、従業員のエンゲージメントを強化するというソリューションや各種人的資源活用手段が巷をにぎわしています。
人的資源活用手段は適切に用いられればそれなり効果はあるでしょうが、実は従業員エンゲージメントそのものは収益にはあまり寄与がなさそうなのです。

この記事は、どうやればエンゲージメントあるいは生産性なり収益性を高められるか、という趣旨ではなく、多分に誤解されている可能性があるエンゲージメントについて正しい理解を促進するために公開しています、

エンゲージメント

エンゲージメントというのは比較的最近提唱され始めた概念で、いろいろな解釈がされていて「従業員の会社に対する愛着心や思い入れ、愛社精神や企業に対する愛着」というような心理状態を指して使われていることが多いようで、産業組織心理学で古くから論じられてきた情緒的コミットメントとかなり近しい概念ながら、まだ科学的に十分検証されているとは言いづらく、収益性への寄与を検証したと読み取れる論文は現時点で見当たりません。

エンゲージメント

ちなみに本来の従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」といったような意味合いらしく、ひところバズったティール組織の従業員意識に近い概念にも思えます。

この定義であれば生産性との相関関係も一定程度理解できはするものの、エンゲージメントを改善して生産性が向上するというより、的確な組織・経営・人事マネジメントが行われ組織が進化した結果としてエンゲージメントと生産性がともに高まるという関係に思えて、いわゆる相関関係ではあっても因果関係だというのは少なからず疑問に思えます。

良い会社になるためには従業員満足度も重要な要素だから、それを改善することは非常に有意義で自分もそれに賛同できるのですが、こと収益とか労働生産性との関係については、厚労省資料「令和元年版労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」のp196「ワーク・エンゲイジメントと仕事のパフォーマンス」などを見ても、エンゲージメントを高めることで収益性が改善するとまで言いきれないのです。

ソリューションの提供者たちは、エンゲージメント改善すれば収益増加効果があると主張し続けるとは思いますが、実は従業員の意欲増進よりは、業務の改善たとえば業務標準化・改善やIT化、標準化や製造でいえば一個流しなどプロセス改善のほうがはるかに大きな生産性改善効果が得られるのは冷静かつ論理的に考えればすぐにわかる話です。

科学的根拠のはっきりしない主張をする輩は多数いて、個人的には苦々しく思うもののそういうパチもん心理学を無邪気に信じるかどうかは各々自由だし、それで本人と関係者や周囲が幸せならそれはそれでもいいようにも思いつつ、でももっと良くなれる芽を自分で摘んで存在意義を自ら貶めているのかもしれないことに気づいて欲しい気はします。

歴史的背景

さりとて、エンゲージメントやコミットメントは生産性とまったく無関係かといえば、歴史的に見ればそういうわけではありません。

心理学者やコンサルの間では有名すぎる、ホーソン実験という逸話があります。

ホーソン実験

詳しくは各自調べていただくとして、チャップリンのモダンタイムスのように機械の一部のように働かされるのではなく、良い人間関係の職場でちゃんと一人の人間として尊重されながら働くと明らかに生産性が上がる、という実験でした。

実験されたのはまさにモダンタイムスが撮影(1936年)される前の10年間、職場のマネジメントが行われていないといっていい時代のお話で、労働環境が違いすぎていて現在と単純比較することはできませんが、人を働かせるというのは牛や馬を使うのとはわけが違うということです。

エンゲージメントやコミットメントの意義

現在だとエンゲージメントやコミットメントが高いことのメリットは、収益ではなくむしろ会社の存続、存在意義向上にあるように思います。

労働人口が減少ししかも流動化が進む現在、愛着を持たれない企業はいずれ従業員確保に支障をきたして人材悪循環におちいることは避けられないでしょう。

どう考えても、誰しも働き甲斐があって居心地よい会社のほうがいいに決まっていて、そういう会社を選ぶ・転職するのは至極当然なお話で、従業員のコミットメント強度が事業継続に影響を及ぼす時代がもうそこまでやってきているかもしれません。

なお補足しておくと、コミットメントが高いと報酬対象外であっても組織に有意義な個人行動(役割外行動)が増えることは確かめられているし、離職抑止に働くことも科学的に確かめられているので、生産性や収益で単純に測れない寄与はあるでしょう。

会社に対する愛着心や思い入れ、愛社精神や企業に対する愛着、企業が目指す姿や方向性の達成に向けた自発的貢献意識、といったものをどう醸成していけばよいか、それにどういう価値があってどう活かせばよいかが、このコーナーの記事で解説していきたいところなのですが、そこはあせらず紐解いていきたいと思います。

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