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15 改めて顧客開拓戦略を考える

(2022/04/25)

この一連の記事は、少なからぬ企業が経営学などの正しいセオリーに従わず改善余地の多い会社運営をしている現状を憂い、とはいえ経営学は決して実務に使いやすい知見として整備されておらず、そういう状態に問題意識があってよい経営を実現するため実務課題にどう経営学を応用すればよいか紹介ができないかと思ったのが発端でした。

なので記事の書きぶりは、実務課題をどう解決するかというボトムアップ寄りなスタンスです。

いっぽうで顧客開拓を合理的・合目的的になしとげるには、「長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・応用科学」である戦略が不可欠で、顧客開拓もやはり正しいセオリーに準拠し戦略を立案実行することが肝要です。

ここでは、これまで縷々書き綴ってきた顧客開拓の考え方を本来取り組むべきトップダウンな戦略枠組みで補足整理しなおします。

トップダウンとボトムアップ

この記事を読むくらいの閲覧者なら先刻承知だろうからとりたてて説明するまでもない事、なので簡単に復習です。

トップダウンとボトムアップをすごく端的に言えば全体最適指向か部分最適指向か、どちらが優れているということでもないのですが、企業のような大きく複雑なシステムのかじ取りはトップダウンを意識しないと内部のベクトルのズレなどによる効率低下が見過ごせなくなるでしょう。

もちろんより正しくはトップダウンとボトムアップを繰り返しすり合わせて、落ち着きの良いポイントを探り使い分け併用するのがいいです。

トップダウンの特徴

基本的にすべてのアクションの一貫性が担保でき、全体最適ができるのがトップダウンのメリットといえます。

複数複雑なアクティビティを一か所で効率的合理的に統制でき、混乱の余地がなくなります。

複数案を調整するのでなく一か所で意思決定するので迅速で混乱や誤解が起こりにくいいっぽう、意思決定を誤ると重大な問題を引き起こすことにもなります。

現場での創発の機会が少なく指示待ちになる傾向もあるといいます。

ボトムアップの特徴

現場の現実や知識が反映されやすい、現場のメンバーが意見しやすく成長や主体性に繋がるメリットがあります。

一方で、全社のベクトルが必ずしもそろわず一貫性を保てなくなる、全社の活動全体像もおぼろげになりかねない、成果が現場構成員の能力に依存し、意思決定も時間が掛かる、といった問題につながることになります。

現場は外部環境(PESTや5FORCESなど)を掴み分析する機会に恵まれないので、ダブルループ思考は苦手かもしれません。

戦略ピラミッド

顧客開拓戦略は単独で実施するべきではなく、全社戦略の一角をなして関連する他の戦略と同時進行で実行されるものであって、それらと適切に連携協調しなければ効率が悪いどころか最上位目標や目的の達成はおぼつかないといえます。

従ってそれら機能戦略あるいは複数事業の戦略を束ね統括する全社戦略が必要ですが、全社戦略も目的が明確になってはじめて戦略の体をなせるわけで、まず全社戦略が目指すことすなわち理念やミッションを明確にして、すべての戦略・戦術・オペレーションが適切に協調することが、目的や目標を達成するうえで肝要です。

注)ここで理念とは会社活動の根幹となる価値観・行動基準・価値観・守るべき社風や文化などを、ミッションは企業としての使命や存在意義といった概念を指します。類似の概念に社是・社訓とかパーパスとかバリューとかクレドとかいろいろありますが、当ホームページでは理念とミッションということばで統一します。

戦略ピラミッド

ちなみにビジョンは理念やミッションの下位に位置して中期的将来に会社がありたい姿を指し、いつ、どのように、どのくらいが明確にわかる、SMART(Specific:具体的に Measurable:測定可能な Achievable:達成可能な Related:経営目標に関連した Time-bound:時間制約がある)な目標を意味します。

測定可能でないと達成できたかどうかが判断できず次の手が打てないから、定量性がない目標は目標として要件を満たしません。

昨今のVUCA環境ではミッションが見直されることもあるし、またミッションの下位にやや遠い将来に向けた未来像を描くこともありますが、ここではそれは省略して理念-ミッション-ビジョン-経営戦略(全社戦略)-事業戦略/機能戦略、というトップダウンな方針展開を想定します。

機能戦略が事業戦略の下位に位置付けて表現されることもありますが、事業から機能を整備する視点もあるし機能を全体最適して戦略にフィードバックすることもあるので、ここでは同レベルで交差した絵柄にしています。

トップダウンな戦略展開に落とし込む

突然ですが仮に、来期収益2割増しという全社目標が決まったとします。

0.理念・ミッション
本当は理念やミッションを踏まえて目標の妥当性が府落ちするよう練りあげ練り直すのが非常に大切で、それをしないから多くの目標が納得感が薄くて未達多発になるのですが、そのやりかたについてはここでは端折ります。

1.全社戦略
複数事業がある場合、どれを伸ばすか、どれは現状維持か、場合によってはビジネスそのものを取捨選択することもあり、ミッションがビジネスの理由目的の表明なのに対し全社戦略はなに(どのビジネス)をなぜどのようにするか、という事業の設計原案だといえます。

解釈に幅ができる曖昧な全社戦略はビジネスがあらぬ方向に迷走するので、明確に方向性を提示することが重要です。

商品ライフサイクルやシェア、自社の強みや弱みにより進むべき方向が変わり、5フォース、PEST、SWOT分析など内外の環境分析が不可欠で、ポーターの基本戦略、資源ベース理論、コトラーの競争地位別戦略といった考え方を参考に事業や商品それぞれの進むべき方向性を取りまとめます。

BCGマトリックスは現在の市場環境にはそぐわない所もありつつも成長市場か衰退傾向の市場かといった視点は参考にはなります。

売り上げを増やしやすいビジネスと今後伸ばしていく必要があるビジネスは必ずしも一致せず、どのように経営資源を配分するのが最適か、それで自社の存在価値を最大にできるのか、まさに長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する必要がある訳で、そういう判断を整理し体系化したのが全社戦略といえます。

2.事業戦略
全社戦略を事業別にブレークダウンしたものが事業戦略で、単一ビジネス企業の場合は全社戦略≒事業戦略ともいえます。

全社戦略確定時におおむね各事業の目標が設定されるのを受けて、それを達成するための詳細な事業戦略を考えるわけですが、事業間のシナジーとか担当マーケットの分担といった配慮、また物流網や生産設備など同じ経営リソースを使う場合のやりくり、人材や経費の配分など、全社戦略で適切にコントロールされる必要があります。

特に利用できる経営リソースの将来設計ともいえる購買、営業、物流、人事など機能戦略は、各事業戦略の結果を受けて編成され、結果は事業計画にフィードバックされて計画ブラッシュアップのインプットになり、ときには事業の強みを作り込むためのプランにもなるものです。

3.営業戦略
営業戦略の観点からは、どの事業はプロモーション強化して市場浸透するのか、どれは商品改良が必要で顧客課題のリサーチをするか、新しい顧客層を開拓するのか、既存客の消費を刺激するのか、限られた人手と経費予算を効果的に使えるよう、全社戦略が示す各々の事業目標を達成するための方策を練ることになります。

もっとも、商品がお客様の課題を合理的に解決できる商品力がないといくらプロモーションしても売れないし、市場が終焉に向かっているような場合もあって、販売促進するのが最善の判断かよく考える必要があります。

部分最適に偏ると顧客開拓することが目的化しがちなので、将来のゴールを意識しながら目先の実施計画を実現したいものです。

戦略見直し

「正しくやることが重要なのではない。正しいことをやるのが重要なのだ」といったのはドラッカーですが、正しい理念やミッションに準じて行動しなければ意味がないという指摘であると同時に、刻刻変化するビジネス環境のなかで決定事項をかたくなに実行し続けるのは、結果として現実と乖離して正しくないことをやる羽目になるともいっているのです。

トップダウンな戦略展開はそれなり実施できている企業も少なくないとして、戦略を環境変化に応じて適宜見直している企業はそれほど多くないかもしれません。

環境変化には外部環境変化(特に競合やPEST)と内部環境(進捗の遅れ進み)があります。

外部環境変化が織り込み済みで予想通りならいいのでしょうが、そうでない場合に致命傷を負わないように、事前に考えられる楽観パターン/悲観パターンで対応策を考えておく、起こりうる環境変化によるダメージを予測し対策を用意しておく、想定外の変化に備えチェックポイントを設定して環境因子のモニタリング・影響分析をする、といった対応を継続することで、不意を突かれる危険はかなり低減します。

個々の戦略を実行することは目的目標ではなく、よりよく自社存在意義を実現することが目的であり、目標はその中間点であることを常に認識することが大事です。

個別の対策では、予定通りに進捗することは滅多になくて必ず遅れ/進みが生じます。

プロジェクトマネジメントの要諦の一つは、進んでいる工程はそのまま進めるか、当初の計画までペースダウンして余剰になるリソースを遅れている工程に再配分するか、判断し実行することにあります。

プロジェクトマネジメントの観点からは、予定より進捗が早いことは決して好ましい事ではないので、その把握のためには進捗度合いを先行KPIで数値化して適宜モニタリングすることが重要です。

そのためにはゴールに至るまでの道筋やKPIを全員で共通認識することも有効かもしれません。

プロジェクトマネジメントのもうひとつの要諦が、クリティカルパスの考え方です。
何か工程や対策があって、それに着手するには他の対策が完了する必要がある場合があります。

規模の大きめの戦略の実行段階でそういうことがありますが、完了しないと他の作業が着手できない工程の連鎖が必ず存在して、その完了スケジュールが遅れると全体が遅れる、戦略実施コストも跳ね上がる、というのがクリティカルパスの考え方です。

顧客開拓戦略とはやや論点が違うので細かいことには触れませんが、プロジェクトマネジメントのとらえ方で顧客開拓をマネジメントするのはメリットがあるでしょう。

振り返り

しばしばおろそかにされがちなプロセスとして、振り返りがあります。

顧客開拓戦略の一環というよりはビジネスの定石ですが、いろいろな取り組みの中でうまくいかなかった/うまくいった原因を見出し、組織で再利用できる知見として蓄えることで組織の学びが進んで経営効率を高めることができます。

コルブは経験学習モデルで、人間は「具体的経験」「内省的反省」「概念化・抽象化」「能動的実験」の4つのステップからなるサイクルを繰り返すことで、経験学習をしていると提唱しています。

経験学習モデル

顧客開拓するために取り組んだ多くの施策は完ぺきではないし、うまくいったとしても環境変化を経て時代遅れになることもあって、改めて反すうしその成功の勘所を次回に活かすことが重要です。

おわりに

コロナの流行で売り上げが下がった会社は少なくないと思うのですが、売れなくなったのはコロナのせいではなくて、コロナを経て価値観に変化が生じ商品による課題解決メリットが商品価格ほどでなくなった、つまりお客様が商品に価値を感じなくなったのだと理解していただきたいところです。

長らくのご愛読ありがとうございました。

これまでの記事が貴社のお客様にとってより良い会社になる一助になれば幸いです。

自分の意見やアイデアはともかく、何人もの賢人や偉人の含蓄ある言葉をたびたび引用してきました。

最後に、将棋棋士羽生善治さんの言葉を紹介したいと思います。

三流は人の話を聞かない。
二流は人の話を聞く。
一流は人の話を聞いて実行する。
超一流は人の話を聞いて工夫する。

おわり

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