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13 ちょっとデザイン思考なリピート促進

(2021/12/30)

「11 ご贔屓のヒントはすべてお客様から教わる」に書いたように、お客様が商品を買いたくなるのは「お客様に解決優先度や緊急度が高い課題あるいはニーズがある」「当店・当社の商品なら効果的に課題解決に貢献できる機能あるいは便益がある」「お客様がそのことを知っている」ときなのは異論は少ないと思います。

またお客様が買わないのはそのいずれかが欠落しているときだ、というのも大丈夫だと思います。

お客様にいわゆる心理的説得技法などで、たいして買いたくもないものをある意味錯誤させて買わせるような販売行為は、どれを買うか判断しかねているお客様相手ならまだ情状酌量余地はあっても、所詮その場限りでしかなくて商品力があってお客様の課題をちゃんと解決できる商品にはとうてい太刀打ちできません。

販売員

何を買えばいいか困惑しているお客様にアドバイスするという解釈に立てば、プロモーションもある意味お役に立っているのかもしれませんが、やはりお客様のニーズに沿う/お客様の課題解決に役立つ商品を提供してお役に立ち続けることこそが、リピート化の王道であり商売繁盛のポイントといえます。

今回はそういったことを踏まえて、売り手が買い手により良い価値を継続的に提供しつづけ、それを喜んでいただくにはどうすればいいか、ということについて考えてみます。

ニーズ・課題の消失

初めて商品を購入していただいたものの、リピートが途切れてお客様のお買い上げがぱったり止まることはよくあることです。

低迷

たとえば自動車販売ビジネスのように耐久消費財を扱う場合や、工場生産機械など資本財の生産や販売でありがちなことです。

食料品などの非耐久消費財や工業原材料など生産財でも、いちど購入したら数年はそれでまかなえるような場合は多数あって、売り手側は間に合ってるものをさらに売りつけることもできず売り上げ低迷に困り果ててしまうわけです。

それではお客様は、それまで困っていたご自分の課題が商品購入によって解消して、満ち足りた状態に落ち着いたのかといえば、賢明な方ならお判りでしょうが、課題が解消する場合もありますがまだ課題が残留している場合も少なくありません。

たとえばお客様が自家用車を中古車屋さんから購入することを考えましょう。

ふた昔くらい(もっと前かな?)は、自家用車を「所有する」ことが消費者の夢でした。

所有していないことがお客様の課題だったわけだから、中古車屋さんから車を買えば、車を所有していないという課題自体は解決するわけで、めでたしめでたし一件落着と言いたいところですが、実はこれで終わりではありません。

自家用車を手に入れると、車検や年次点検があるし任意保険に入らなければならなくて、たまにでも遠乗りしたら給油、冬になればスノータイヤ、たまには洗車もするだろうし、なにかと手がかかってきます。

課題の解決策をひとつ実行したら、それに付随して新たな課題が生じるのはよくあることです。

お客様にとって必要なのは商品ではなくて課題解決であって、この場合課題が解決したかのように見えてやはり新たな別の課題が生まれてしまうわけです。

近頃は、消費者が自家用車を購入するのは所有したいからではなく、たとえば「家族との思い出を作りたいから」だったりします。

だいぶ昔になりますが、ニ○サンセレナのCMのキャッチコピーは「モノより思い出」でしたが覚えているでしょうか。

ステップワゴンは「こどもといっしょにどこいこう」というキャッチコピーでホ○ダの窮地を救ったともいわれています。

もはや車は実際に売り物だったとしてもそれを求められているのでなく、車を介して得られる豊かな家族体験が求められているといってよく、でも実際にそれを手に入れるためには車の他にいろいろな課題解決のための追加品の購入が必要になってきます。

商品を購入する目的・解決したい課題は人それぞれですが、商品を入手する事自体は目的でなくその便益によって課題を解決したいからで、でもしばしば使い方がわからなくて課題解決しきれなかったり、商品に付随する新たな課題が生じたり、もっとより良い便益が欲しくなったり、商品を買っても簡単に課題解決に至らないのが人の常なわけです。

いっぽうで家族の豊かな体験・思い出という切り口で課題を俯瞰すると、映画鑑賞でも外食でも遊園地でも、自宅で一緒に料理を作って庭で食べるのだって得難い思い出になりえます。

遊園地

課題解決に資することができるのは実はその商品だけでなくて、まったく異なるカテゴリの商品が競合することだってあるので、業界内でトップだからと安心できないのです。

お買い上げを誘起する働きかけの継続

リピート購入を仕組むキーワードとして、LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)があります。

「企業にとってある一人の顧客が将来の関係全体に寄与する価値(純利益)の予測である」(Wikipedia)というライフタイムバリューの解説はちょっと意味をつかみかねますが、要はある顧客から生涯に渡って得られる利益のことです。

単発一回きりで取引を終えるのでなく、長期間にわたり囲い込んで儲けさせていただこう、というマーケティング1.0以上2.0未満くらいの発想で、CRM(顧客関係管理)をしながらしばしばアップセル、クロスセルといった施策が採用されます。

アップセルというのは「現在ある商品を検討している顧客や以前商品を購入した顧客に、より高額な上位モデルに乗り換えてもらうこと」、クロスセルは「顧客が購入しようとしている商品とは別の商品を提案して購入を検討してもらうこと、または、顧客が購入を希望している商品と組み合わせて使うことのできる商品の購入を促すこと」ということです。

自家用車でいえば、カローラの購入を検討しているお客様にクラウンをお勧めしたり、カローラを購入したお客様にクラウンへの乗り換えをお勧めするのがアップセルです。

またクロスセルは、カローラをお買い上げいただいたお客様に、引き続き当店での任意保険契約、車検や年次点検サービスの利用、関連会社経営のガソリンスタンドでの給油をお勧めするような活動です。

そのためにはCRMでご縁を切らさぬようにしながら、祝日イベントを開催したりお得意様感謝デーを設けたり頻繁にダイレクトメールを届けたりして、次のチャンスをうかがうのです。

感謝祭

お客様は商品を買ったが最後とことん吸い尽くされるわけですが、はてそれって本当にそれって販売者としてあるべき正しい姿なのでしょうか。

お客様の立場で考える

企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される」というドラッカーさんの言葉を思い出すと、お客様が困っていて、その解決をお手伝いするというのがそもそも企業の出発点だった、と思い出します。

出発点に立ち戻ってもういちど考えてみると、お客様は解決したい課題があって商品をお買い上げいただけたわけですが、必ずしもそれで課題が解決できるわけではありません。

よってもしも自社・自店が、ほかのカテゴリの商品も含め他社がお手伝いするより合理的に引き続きお客様の課題解決のお手伝いをできるなら、お客様にとって喜ばしいのは間違いないし、自社・自店が本来やるべきことをちゃんとやれている、ということになります。

そのためには、まずお客様の初回購入の時にどんなお困りごとがあるのか適切に把握し、場合によってはより本質的な課題の存在を示唆し、もっとも適した商品をご提案し、購入後うまく課題解決できたか/より良い解決のためにどんなお手伝いができるかお客様の状況を把握しながら適宜適切な解決策をお勧めすることが必要です。

売り上げアップ

さらには、よりよい解決のお手伝いをするためには、ご提案しようとする追加商品を調達したり、場合によってはお手伝いの仕組みづくりや商品の改善や開発をしなければいけないし、お客様が初回購入する商品も付加価値を高めておく必要があります。

よく見比べると、お客様の課題解決により良く貢献するためにしないといけないことと、お客様からよりたくさん利益を得たいがためにすることとは、見た目には違いがないことに気づきます。

心構えがまったく違う取り組みだったとしても、お客様から見て自分の課題解決のためを思ってくれているのか、儲けたいからやっているのか区別付かないわけです。

お客様の課題解決をちゃんとやれる店・会社になるにはどうすればいいかといえば、地道な積み重ねで示すしかないですね。

つまり、再掲になりますが
・お客様の初回購入の時にどんなお困りごとがあるのか適切に把握
・場合によってはより大きな課題の存在を示唆
・もっとも適した商品をご提案
・購入後どんなお手伝いができるかお客様の状況を把握しながら適宜適切な解決策を提案する
・追加ご提案する商品の調達ややり方とか商品の開発
・初回購入する商品の便益の改善ないし差別化
をとにかくお客様の立場になってやる、ということ、それ以上でもそれ以下でもないでしょう。

忘れてはいけないのは、こういった取り組みをやってることを、適切にお客様にお知らせすることです。

さらにはこういったことがいつでも、だれでも、どのお客様に対しても均質にできなければならないので、店員さんや社員さんの人材育成は不可欠になります。

ここでは人材育成には踏み込みませんが、重要性について十分に考えていただきたいと思います。

プロダクトの3層構造

商品の開発とか、便益の改善ないし差別化なんてどうすればいいの?と思ってしまうところですが、「プロダクトの3層構造」という考え方があります。

じつはこの考え方もコトラーさんが言い出したことなのですが、「第1層が中核顧客価値で、物財やサービス財の入手や消費によって顧客が得る中枢となる価値のことであり、コストと便益の比率で把握することができる」「第2層の実体商品は、デザイン・商品名・品質・パッケージなど人々が通常意識する商品の部分である」「第3層の拡張商品とは商品に付加されたサービスで、アフターサービスや保証など実体商品の外側に位置付けられる」のだそうです。

プロダクト3層

お客様が商品に感じる価値というのは、商品そのものが有する純粋に機能的な価値とそれに付随する価値、加えて商品そのものの特性ではないけど一緒に提供される価値がある、という考え方です。

たとえば自家用車を例にするなら、第1層は快適に移動すること、第2層は、燃費や耐久性やデザインといったこと、第3層はアフターサービスや販売店からの家族との思い出を作るための有益な情報提供、買い替えるときの下取り価格などでしょうか。

八百屋さんだったら、第1層はむろん野菜を買える事、第2層は安くて新鮮で品ぞろえがいいこと、第3層は配達やおまけをしてくれる、簡単で美味しい調理の仕方を教えてくれる、取り扱ってない野菜でも取り寄せしてくれる、今日のおすすめを教えてくれる、といったようなことでしょうか。

B2Bビジネスでいえば第2層に品質や価格、第3層に提案力や納期の早さや受発注手続きの容易さ・正確さ、静脈物流などが当てはまるのかもしれません。

仕入れ販売をしている小売店舗のように商品自体では競合と差別化できなくても、お客様のお役に立つ本気があるなら、商品力を高められる余地はたくさんあるのです。

マーケティング3.0~5.0

ここまでのことにちゃんと取り組んで成果が出るようになったら相当優秀で、ご贔屓客さんはかなりたくさんになっているだろうと思います。

でもコトラーさんに言わせれば、まだマーケティング2.0段階に過ぎないのです。

これで十分という見方もあると思いますが、もっとお客様にかわいがっていただくためにはどうすればいいか、少し考えてみましょう。

※ちなみにここに書くことは、コトラーさんの考えを正確に分析しているということではなくて(そんなことをしてもあまり意味がありそうにも思わないし)、マーケティング1.0~4.0の概念を踏まえ、ニシカワだったらこういう風に解釈して反映していく、という内容ですからそのつもりでご覧ください。

マーケティング3.0の概念は端折っていえば、地球温暖化、貧困問題、少子高齢化などの社会課題の顕在化のなかで、企業が社会的責任を果たし消費者とともに世界をどうよりよくすることができるか考え実行しよう、という言い方ができそうです。

温暖化

企業は自社の存在意義が何で企業活動を通じどう社会に貢献するのか、消費者や顧客に明示しポジティブに実行してその姿勢を示していく必要があります。

顧客に価値を提供し顧客課題解決のお手伝いをするのみならず、積極的に社会や顧客と協力して社会をよくすることを求められるのです。

まずは、適切に企業理念やミッションを定め、積極的に実践して適切に情報発信して、そう簡単ではないけどお客様や社会からその姿勢と実績を認められることが必要です。

社会や顧客と協力協調する仕組み・体制を、製品の機能やコストと両立させながら上手に作ることはかなり重要なポイントになるでしょう。

消費者参加型製品開発、SDGsへの取り組みや社会問題に目を向けてもらうための消費者教育、そのために全面的とは言わないまでもB2CからD2C(Direct to Consumer)への移行といったことも必要かもしれません。

マーケティング4.0は、顧客に「自分のあるべき理想像」を気づかせ顧客の自己実現を後押しするような商品やサービスの重要性を教示しており、ある意味お客様自身が気づいていなかった課題である「ありたい姿や自己実現に向けてのロードマップのヒント」のようなものが商品の価値なのかもしれません。

利用者が良さを発信したくなったりお客様が宣伝してくれる商品づくりするのが目的だ、という解釈も少なくないですがはっきり言って浅いと思います。

ア○プル社商品が消費者にマーケティング4.0的な自己実現感を提供しているという主張もありますが、多数のユーザーを見て感じる個人的印象は、アイデンティティの乏しい消費者がア○プルのアイデンティティに迎合し集団同一視を経て、所属欲と承認欲求を満たしているように感じられます。

では4.0をいかに実行するかですが、イマイチ消化しきれていないのですがデザイン思考が実現のカギになるような気がして、お客さんの価値観やライフスタイルを代弁・強化できるような商品が求められていそうです。

なおデザイン思考については深すぎる概念なので今回は詳細は触れませんが、しばしば引用されるフレーズ「もし私が、人々に何が欲しいかを聞いたならば、彼らは「より早い馬車」と答えただろう」(フォードモーターの創設者・ヘンリー・フォード)だけ紹介しておきます。

馬車

お客様が欲しがっているものではなく、お客様が気づいていなかった課題に着目することが重要だ、ということかもしれないと思っているのですが、商品当たりの市場規模(=4.0レベルになっているイノベータレベルのお客様の数)はかなり少なく、一方そういう商品の企画開発は素晴らしく切れる尖ったデザイナーでないと成しえないだろうから、簡単に実現するとは思えません。

B2Bだとビジネスパートナーとして顧客のオープンイノベーションの実現支援する、という表現にはなりますが、顧客企業が気づいていない本当に実現すべき将来像を描くところまでやるのは、よほど腕利きのコンサルでもなければ到底成功はおぼつかないでしょう。

マーケティング5.0は、お客様が課題を感じたらそれが兆しであってもITの力でお客様のニーズを推測してベストな提案・ベストな商品提供を行うべきだ、という主張と、これからの企業活動はお客様、株主、従業員、納入業者や地域社会まですべての関係者と事業活動成果を分かち合うべきだ、というお話のように思えます。

マーケティング5.0については、またいずれ自分なりに咀嚼してうまく説明できるようになったら、改めて記事更新したいと思います。

B2CにしろB2Bにしても、よほど達観し実行力を持つ超一流の社長でないと、マーケティング4.0やマーケティング5.0に取り組むのは正直いって難しいと思います。

まとめ

今回言いたかったことは、合理的に引き続きお客様の課題解決のお手伝いをできるのはお客様にとって喜ばしいのは間違いないし、自社・自店が本来やるべきことをちゃんとやれているということだから、リピート客が増えるのは非常に重要だし良いことだ、ということでした。

とはいえ、策を弄しても結局は商品力に優位性のある商品・お客様の課題解決に有益な商品が勝つ、そのために商品価値を高める不断の努力が必要、ということでした。

リピート強化策について読むほうも大変だろうし3話で終わりにしたかったんですが、書くことが次々出てきて収拾がつかなくて、やむなくもう1話追加したいと思います。

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