(2021/12/30)
昨今のマーケティングの技術動向や知見のトレンドを大づかみにでも解説しておかないと記事が締まらないかもという訳で、ちょっとレビューしてみたいと思います。
※この記事はおおむね2021年初頃の技術・トレンドをもとにしているので、数年したら記事が古くなっているかもしれないことをご了承ください。
スマホで代表される情報通信技術の普及を背景に、デジタルマーケティング技術はともすれば消費者不在じゃない?と思えなくもないほど進化しています。
また前回触れたように、世界のマーケティングをけん引しているのはフィリップ・コトラーおじさんで、神ともよばれる人がどんなことを言ってるか、自社の集客でどう活かせばよいか考えるのも意義深いと思います。
デジタルマーケティングもコトラーさんもB2C寄りな記事なのですが、そのあとでB2Bについて補足したいと思います。
MarTechという言葉を知ってる人も多いと思います。
マーケティング(Marketing)と 技術(Technology)を掛け合わせた造語で、FinTech(フィンテック:金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動き)やHRTech(HRテック:人材採用や人材育成、人事評価といった人事領域に活用できる主にデジタル技術)と同類の言葉です。
※このセクションは、アルファベットやカタカナがうんざりするほど出てきます。
MarTechは主には
ではいっぽうで神様はマーケティングをどう語っているかというと、人により多少内容の解釈が違ってはいるのですが、以下のような5つの進化段階があるのだと言ってそうです。
●マーケティング1.0:製品中心のマーケティング
第二次産業革命がもたらした製造力を背景に、大衆向けの商品(製品)を大量生産・大量販売することを目的にしている。
マーケティングの目的はコスト削減や製造管理、マス向け販売といった企業側の視点を重視した活動が主流で、代表的なフレームワークは4P理論(マーケティングミックス)やSWOT分析など。
●マーケティング2.0:消費者中心のマーケティング
大量生産・大量消費社会は消費者の利便性を高めたいっぽうで、公害や健康問題など消費者への悪影響が問題視されるようになり、マーケティングは「製品中心」から「消費者中心」へと変化。
商品の性能・利便性だけでなく、安心・安全といった消費者ニーズを満たすための商品の開発を重視し、また顧客に選ばれ囲い込みむことを意図した顧客管理を想定したマーケティングが主流となった。
競合企業との差別化や市場シェアの獲得を目指す傾向が強く、STP分析やファイブフォース分析、3C分析などのフレームワークが活用され始めた。
●マーケティング3.0:人間中心のマーケティング
インターネットが普及したことにより、単なる「消費者中心」から「人間中心のマーケティング」に意識変化。
インターネットで消費者が自由に情報を得られるようになったことで、消費者は企業と横の関係になった。
提供される商品がどのような社会的価値をもたらすか、どんな企業ミッションなのか重視する消費者はまた、商品価値の創造にも直接関与しはじめるなど企業と関わり合いを強めるようになった。
その結果、製品管理・顧客管理に加え、ブランド管理も重視されるようになった。
インターネット・マーケティングやペルソナの活用が重視される。
●マーケティング4.0:自己実現中心
商品を通して、自己実現(チャレンジ精神やクリエイティブ思考の実現)を果たせるかどうか、顧客と企業で価値観やアイデンティティが共感できるか、商品の消費者である自分自身の価値観を好きになれるか、購入後に価値が深まるか/商品を他人に推奨できるかといった価値観が重要となる。
マズロー欲求五段階説がベースにあるとされる。
企業が提供する商品は、顧客が実現したい、または共感できる価値観を満足することを求められ、ブランド管理の重要性がさらに強化されている。
インフルエンサー・マーケティングやコンテンツマーケティングなど、社会や顧客への影響力が高い人物や顧客ニーズを満たすコンテンツを活用したマーケティングが主流となる。
●マーケティング5.0:良い社会の実現
WebやSNS、POSなどからオンライン経由でもたらされるビッグデータから予測して効果を最大化していく予測マーケティングが実現していく。
そこではリアルタイムでカスタマージャーニー分析を行い、その結果をすみやかにカスタマー対応に反映させ最適な提案と供給が行われるようになる。
従来のような株主中心でなく、あらゆる関係者とともに成功を分かち合い共栄を目指す、利益の最大化と分配をデジタルツールによって実現する愛されている企業になる。
※まだ咀嚼消化しきれてないので多少勘違いがあるかもしれません、悪しからず。
これからはマーケティング4.0やら5.0の時代だとまことしやかに言うマーケッターは少なくなさそうなのですが、世の中が不可逆的・一方向的に進化するようには思えません。
現に大企業はいまだに1.0な大規模生産・マスプロモーションもやってるいっぽうで昨今では2.0的なサービス化やサブスクリプション事例が現れ始め、また3.0的にSDGsに取り組む企業も出始めたもののデザイン思考はまだ十分に普及しているとは言えないし、4.0が広まるためにはもっと消費者自身確かな自己アイデンティティを形成する余地が十分ある、5.0はまさに始まったところ、といった段階に思えます。
コトラーさんは、科学者・建築家・エンジニア・デザイナーなどクリエイティブな職業従事者は自己実現欲求が強い傾向にあって、かつ先進国でそういう職業が経済で重要な位置づけになってきたことを踏まえて、マズロー欲求五段階説に着想を得てマーケティング4.0を思いついたといいます。
当然彼ほどの人だから、どんなに先進国でもそういった職業の人はほんの一握りなのは承知してるだろうし、マズロー欲求五段階説が心理学の世界では不完全であると評されていることも理解しているはずです。
状況次第でステージを飛び越したり逆方向に戻ったりすることもある、というのが昨今の欲求五段階説の研究者解釈で、であれば消費者心理が欲求五段階に準じるならば、かならずしも1.0や2.0がどんどん消えてなくなることは考えにくいことです。
コトラーさんは最新バージョンだけが正しいといってるそうですが、次の報告書も参考にして考えても、あくまで1.0から5.0までの消費者心理が一人の中に混在しうる、それをふまえバランスよくプロモーションする必要があるように思います。
ア○ゾンみたいに幅広い品ぞろえを幅広いお客様に提供するのでなく、自社の強みを出せる商品をご贔屓客の課題解決に提供するのであれば、無理に先端デジタルマーケティングを追い求める必要はさほどなくて、商品の特質とお客様のニーズにあわせたマーケティング1.0~5.0のそれぞれの施策を必要に応じて組み合わせることを考えれば良さそうです。
狭義のマーケティング(物を売る活動)での自分の解釈は簡単に言えば以上ですが、広義のマーケティング(ある意味企業活動すべて)の目でみれば、企業が目指すべき立ち位置としてのマーケティング5.0の考え方はなかなか含蓄があって、この点についてはまた別途どこかで触れたいと思います。
2017年3月に経済産業省が、「2030年頃の消費経済市場を見据えつつ、消費者意識の変化、より一層の消費者理解やそれに伴う企業経営の在り方、消費者起点のイノベーション等について検討を行う」という目的で、「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会報告書というものを発行しています。
コロナ前でもあり、当時想像された現状と少し食い違う部分もあるかもしれませんが、日本経済の司令塔が消費者をどう分析しているか参考になります。
報告書では消費行動には3つのタイプがあって、それらは個人の中で共存し常にタイプ間を行き来するのだといいます。
~自律的~
「自分に合ったものが欲しい」そういったものを持つことで「ワクワク・ドキドキ感を味わいたい」という欲求から、自らのこだわりを追及し、消費を自らコントロールする・自ら作るような消費行動のタイプ。ものづくりを支援するようなサービスや、自己実現をサポートするようなサービスを提供。マーケットは小さいが、多少高価でも購入するインセンティブが働くため、利益率は高い
~他律的~
「自分に合ったものが欲しい」が、自分で選ぶのはめんどくさい、自分の求めている商品やサービスについて、ITを通じて発見して提案して欲しい、最適解を効率的に得たい消費行動のタイプ。極力自分で商品・サービスを選択する手間を省き、効率的に望むものを得ていくタイプ。最適なレコメンドやカスタマイズを実施するなど、極力人間が自分で選ばなくても済むような消費のあり方を実現するサービスを提供。過干渉になりすぎると消費者からは倦厭されるためバランスが必要。このタイプは多いため、コスト競争が激しくこの消費行動のタイプにおける利益率は低くなるが、ボリュームゾーンである
~偶発的~
選択肢の中から偶然おもしろいと感じるものを発見するような消費行動を望むタイプ。普段は好まないようなものをあえて提案したり、タイミングを見計らい偶然を装ったサービスを実施するなど。他律的消費と偶発的消費は飽きを起点にシフトしていくため、企業は双方の消費行動のタイプをうまく混ぜて切り替えて提供していくことが必要になる。SNS の「いいね」を求めるなどネタ消費を好む傾向にあるため、写真映えする商品や、限定商品などを提供してネタ消費を促す
今後の消費インテリジェンスの蓄積・利活用のあり方・課題・方策としては、企業は「企業間・企業内での情報共有促進、消費者インサイトの把握、消費者が安心して情報開示をしたくなるようなインセンティブの付与、情報セキュリティ等」に取り組む必要があり、企業と消費者は「密なコミュニケーション、デザインシンキングや共同商品開発等による“深い関係”、SNS等の場を通じた消費の兆しの把握等」に取り組む必要がある、というのが結論です。
興味がある人は是非一読いただきたいですが、まぁ実行戦略は希薄なもののだいたい落ち着くべきところに落ち着いた結論だった気がします。
今回のここまでの記事はどちらかいえばB2C色が強い内容でしたが、B2BとかB2B2Cのマーケティング動向はどうかといえば、やはりコンテンツマーケティング、動画活用、AI、アカウントベースマーケティング、マーケティングオートメーション/セールスフォースオートメーション/カスタマーリレーションシップマネジメント、といったキーワードが出てきます。
デジタルマーケティングやコトラーさんや研究会報告は、どちらかいってコモディティに近い商品を想定していて、マーケティング担当者の認知力ではもはや多人数すぎて識別できない不特定多数にどう商品を売るか、どう情報操作して群衆を購入に誘導するか、とでもいうようなマーケティングについて考察しているように思います。
いっぽうでB2BやB2B2Cの流通向けのマーケティングというのは、担当者の能力で識別可能な個々の顧客(購入担当者やバイヤー)にいかに買ってもらうか、という課題です。
いいかえれば、B2CはもはやITシステムありきでマーケティング部門がITの御託宣に従い群衆操作タスクを粛々と展開するイメージなのに対し、B2Bだと生身の営業担当者が能動的に行う営業活動のなかでITを使うのはそれを補助するため、というニュアンスの違いがありそうに思います。
人間の営業活動がメインでそれを支援するITか、人間にやるべきことを教示・下命するビッグデータ×大規模プロセッシングか、と表現できそうで、B2BではB2Cと同じようなマーケティング技術を使うにしても、使う姿勢が違っていそうです。
だとするならば、B2Bでお客様の役に立てるかどうかは、最終的に営業担当の能力に依存することになります。
ITを使いこなすのはとても大事でそれにより能率や正確さはうんと高まるものの、会社やお店の独自の強み・魅力はつまるところそこで働く人間に源泉があって、他者と似たり寄ったりのITシステムでは競争劣位は挽回できても競争優位性が生じることは少ないでしょう。
お客様にご贔屓いただくのを極めていくと、当たり前と言えば当たり前ですが人材のポテンシャルを上げる取り組みに収束していくように思われます。
※とはいえIT活用しないと競合他社よりスピードが遅かったり精度が低かったり業務効率が悪いわけだから、競争で生き残れないことは肝に銘じるべきです。
人材育成・組織開発については、産業・組織心理学とか行動分析学とか科学的に検証された有益な知見があるので、おいおい別シリーズ記事で紹介したいと思います。