(2021/12/30)
売り上げというのはシンプルに言えば「お客様の数」×「お買い上げ額」の合計だから、収益を改善しようと思ったらつい新規顧客を獲得することに腐心してしまいがちになるのですが、実は
●顧客離れを5%改善すると最低でも25%の利益改善が見込める
●新規顧客を獲得するためには、既存顧客の5倍のコストがかかる
といわれています。
さらにいうと、「売上の8割は、全体の2割の顧客が生み出している」というパレートの法則なるものも知られています。
新規客開拓は重要だしそれを否定するわけではありませんが、新規客開拓はやや労多く実り少ない傾向があって、それよりむしろ今お付き合いしているお客様と末永く良い関係を確立して常連になっていただく方が収益への寄与は高いというわけです。
お客様の課題解決ということで考えても、どんどん新規開拓する一方で既存客がどんどん離れていくよりも、お付き合いを始めたお客さまがずっとリピートしてくださる方が、よほどお役に立ち続けていることは自明です。
インターネットの集客系ノウハウ記事を見ても、お客様をリピート化するためのいろいろな手段がこれでもかと書かれています。
でもどうも、それらを見ても本質的でないというか、小手先の顧客離れ防止テクニックなうえに「継続購入させるための販売側の論理」に終始して、お客様不在な印象がぬぐえなくて自分にはどうも腑に落ちないのです。
なおかつ、なぜリピートしていただけないか根本原因をよく考えそれぞれのお客様の事情やニーズに合った対応をとらないと、十把一絡げで対策を押し付けてはお客様といい関係を作りにくいし非効率です。
ドラッカーは、「企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される」と言いましたが、どうすれば売れるかではなくどうすればお客様に満足していただけるか、ということを改めて考え直すべきでしょう。
お客様は不必要なものを買うほどお人よしではないから、お客様にリピートしていただけるというのは買わせているのでなく買いたいと思っていただけているということであり、いいかえると「自店自社の商品がちゃんと引き続きお客様のお役に立っていてそれを認めていただいている」ことに他ならないでしょう。
※以降の記事は、お客様はすでに一度貴店・貴社の商品(サービスを含む)を購入され、さてこれから引き続きご贔屓いただくにはどうすればよいか、ということについて考えていて、新規のお客様の獲得・購入促進については触れません。
さらにいえばお客様が商品を購入するということは、たとえばお腹が空いたから食堂でラーメンを注文する、髪が伸びてうっとおしいから散髪に行く、壁に穴をあけたいからドリルを買う、など、商品が欲しいのでなくその商品で課題解決を実現したいわけです。
開店周年記念で激安売りされているトイレットペーパーでは空腹がいやせるわけではなくて、お客さんが空腹という課題を急いで解決したくなったときラーメンならリーズナブルに飢えを解消できることと、どこに行けばラーメンを食べられるのか、ということを知っている必要があります。
●お客様に解決優先度や緊急度が高い課題あるいはニーズがある
●当店・当社の商品なら効果的に課題解決に貢献できる機能あるいは便益がある
●お客様がそのことを知っている
ときにお客様は商品を購入してくれるといえるでしょう。
これは初回購入の時でも2回目以降の購入でも同様に言えることで、初回と2回目以降との違いはお客様が商品の効果を一度実体験しているか否かです。
ちなみにお客様が商品の便益を気に入っていれば(つまり1回目の購入で商品が十分お役に立てば)、お客様は課題が再発したときに初回購入の好ましい印象を思い出して再購入を動機づけられます。
行動分析学の言葉を借りて難しく言うとオペラント条件づけにより行動が強化されるわけで、購買行動心理はもう少しメカニズムが複雑だとは思いますが、いい買い物をした経験を経て再購入に前向きで好意的な感情が生じるのは確かでしょう。
※梅干が酸っぱいことをくりかえし体験すると梅干を見ただけで唾液が出るようになりますが、条件付けが成立するとその後は条件刺激のみでも無条件反応と同じ反応(条件反応)が生じるのがレスポンデント条件付けです。歯医者の「キュイィィン」という歯を削る音が聞こえると実際に歯が削られているわけではないのに歯が痛むような気がしたり、歯科医院を見ただけで無意識に避けたくなるのは、まさにレスポンデント条件づけされているということです。
逆に初回購入時に感じた不満足は継続購入意欲をそぐとともに行動の弱化を起こすでしょうし、ほかの商品と違いが感じられない凡庸な印象を持つとお客さんの意識の中でその商品はコモディティ化(競合商品との差異がなくなり経済価値が同質化)してしまうでしょう。
●お客様に解決優先度や緊急度が高い課題あるいはニーズがある
●当店・当社の商品なら効果的に課題解決に貢献できる機能あるいは便益がある
●お客様がそのことを知っている
をすべて満たすときお客様は購入に至るとするなら、リピートしていただけないのはこれらのうちの一つ以上が成立していないからだと考えるべきでしょう。
休眠・離反じゃなくて「自店自社の商品がちゃんと引き続きお客様のお役に立っていてそれを認めていただく」にはどうすればいいかと言えば、いうまでもなくその原因を取り除いてそれをお知らせすればいいわけです。
とはいっても離反してしまったお客様を呼び戻すのは、ときには容易ではありません。
初回購入時に強い不満足を感じ継続購入行動の弱化が起きた場合、行動分析学的に説明するとヒトは同じ目にあいたくなくてその商品(嫌なことを引き起こした原因)を避けるようになってしまい、商品が改良されても再購入しないから印象が改善する機会を得られないという袋小路に落ちるのです。
さてどんな手段を講じるか具体例はのちほど考えるとして、基本的には原因ごとに対策していく必要があって、的外れをしても当然ながらリピート改善にはつながらないし、販売者側の買わせようという論理で対策してもお客様と良い関係を構築するのは難しいでしょう。
では、「解決優先度や緊急度が高い課題あるいはニーズがない」のか、「課題解決に貢献できる機能あるいは便益が乏しい・デメリットが発生している」のか、「お客様に商品を選ぶ動機が乏しい」のか、どうすれば判断できてどう個別対応すればいいでしょうか。
結論から言えば、お客様が快く情報を開示・提供してくれる「顔の見える会社・店」になり、お客様の初購入の時にちゃんと関係性を作って、お客様の状態や気持ちを適切にフォローする取り組み、いわゆるCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)をやることでしょう。
またアルファベットかと思われるかもしれませんが、実は日本の昔々の御用聞きという商習慣は、まさにCRMでした。
さほど用事がないときもちょっと顔を出して単純接触効果を高めながら、商品の消費具合の目星をつけて次の購買タイミングの予測をしたり、商品使いこなしのコツをご案内したり、新商品が出たらどう便利な暮らしができるか紹介しに行ったり、普段の世間話のなかで課題解決の探索とサポートをして、顧客関係管理や1to1マーケティングやカスタマージャーニーの運用をしていたわけです。
昔は情報量も少なくのんびりしたご時世だったから、生身の人間のアナログな情報処理能力で十分対応できたわけで、今でもトップ営業マンは意外とアナログに人間関係を維持して成績を出していたりするものです。
トップ営業マンにくらべてセンスや洞察力や先回り力がない普通の我々はコンピュータの力を借りることも必要で、でないとコンピュータを駆使する競合他社に勝てっこありません。
昨今ではDX(Digital Transformation)という言葉がバズっていて、デジタル化は正義であるかのようなトーンがまかり通っていますが、その本質・目的はデジタル手段を導入することではなくて、従来やりたくても手間暇かかってできなかったお客様満足をデジタルの手を借りて実現することにより、いまよりはるかにお客様の課題解決に貢献できる会社になる事なのです。
ググってくださいといえば済む話だけど、さすがに重要なキーワードだから少しだけ触れておきます。
「顧客関係管理とは顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上を通して、売上の拡大と収益性の向上を目指す経営戦略/手法である」(Wikipedia)というわけで、あくまでもお客様のメリットのために運用されるべきことで、「囲い込み」や「顧客単価向上」のような販売側の論理と一線を画すべきです。
個人情報保護法の規制対象となりますが、個人情報保護法はそもそも個人情報の有効活用を促進するために適切な取り扱いを示した法律なので、お客さまの役に立つことは余計なお世話でない限りどんどんやればよいのです。
というか、もっとお客様の役にたつ努力をしていかないと、必要とされない会社・お店にふるい落とされてしまうかもしれないのです。
リピートいただくための考え方については、こじんまりサクッとまとめようと思っていたのですが、書かなければいけないことがどんどん湧いてきてボリュームがかなり多くなりそうなので、以降は次の記事に続けたいと思います。
2~3回リピートいただく以上に、長きにわたってお客様にご贔屓いただきお付き合いしていくにはどう考え取り組むべきなのか、次回コトラーおじさんの主張を紐解きたいと思います。
今回強調したいのは、新規顧客開拓は重要だけど、それ以上にお客様と末永く良い関係を確立して常連になっていただく方がより重要だということでした。
そのためにはお客様の立場になって考えること、そのためにお客様の気持ちや状態を適切に捕捉しつづけてそれに寄り添い続ける仕組みとマインドが必要不可欠なのです。