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10 お客様とのよい関係を育てていくには

(2021/12/30)

以前、記事「01 売れないワケを原点に戻って洞察する」で少し言及しましたが、お客様が財布の口を開いてくれるのは課題が現実化して困っているときです。

いいかえれば、いくら良い商品・サービスがあっても、お客様が不便・苦痛を感じているか課題が間もなく発生することを認識している時でないと、購買行動にはつながらないのです。

お腹が空いた時でなければ定食屋には駆け込まないわけで、でも空腹を感じてからほんの1時間ほどの間にお店の宣伝をして来店してもらうのはよほどタイミングに恵まれないと難しいから、空腹でないときも常時プロモーションすることで空腹になったときに思い出してもらえるようにするのがただしい手段といえます。

記事「07 不思議の勝ちあり不思議の負けなし」で説明したように、お客様に何らかの必要性が生じたときに、「自社商品が長期記憶から考慮集団メモリーに転送されやすくなるトレーニングを施すことで、有力な選択肢の一つとして検討される機会を増やす仕組み」をお客様の脳の中に作る必要があって、そのためには常時から嫌われない程度に広告の反復を行い記憶想起を促進する必要があります。

買い物

世の中で行われている広告やプロモーションはひとつにはこういう効果を狙っていて、課題が発生する前から、自社自店舗ならどういうお客様の課題をどのように好ましく解決できるか、認知の形成をしているという訳です。

いっぽうで人は、必要性はわかってはいても必要に迫られていないと先延ばしすることもあれば、事前に購入することを決めていなかったのにたまたま場の雰囲気で購入してしまう、いわゆる非計画購買もよくある話です。

購買行動時点での非計画購買促進やヒューリスティックな選択動機付けも、プロモーションの重要な目的ではあります。

消費者向け商品の新規顧客開拓の場合(直接販売)

中小規模事業者が比較的効率的に潜在客・見込み客にメッセージを伝えるとしたらまずは、状況にもよりますがホームページ、チラシやポスティング・DM、店舗の看板・のぼり・ディスプレーあたりを上手に使うのが堅実ではないかと(個人的に)思います。

これらの使いこなしも十分に難しいですが、基本というか、これらをちゃんとやってある程度効果を出せるスキルレベルになってから、さらに必要に応じてほかの媒体の活用を考えるのがよいのではないでしょうか。

訴求すべきポイントはやはり、当店・当社がお手伝いすることでお客様のどのような課題がどのくらいコストパフォーマンス良く解決できるか、そして他店・他社との横並びでない違い、お客様にとって選ぶ理由がわかりやすく訴求されているかどうかで、それらがぼんやりしていたのでは認知してもらうことすら容易でないでしょう。

他店・他社とダントツに差がつくような商品やサービスでなくても選ばれるチャンスがあることは、以前「02 「お客様が欲しいのはドリルではなく穴」を考察する」でプロダクト3層モデルのお話をサラッとしたとおりです。

この際、今後どんなお客様を新規に迎え入れたいか、そのためにどんなメッセージを発信すればよいか十分に検討し、個々のプロモーションや実店舗で全体的な整合性をとります。

ホームページは商品や接客のこだわり、想い、特徴やバリエーションを体系的に過不足なく伝えることができ、検索や他サイト記事からの流入を受け止めるため、またチラシやポスティングで興味を持ったお客様の情報補完のために不可欠・基本で、インターネット時代の昨今、自前のホームページが整備されていないのは致命的に近いと言っていいかもしれないネットメディアです。

もっとも、ホームページはお客様が閲覧してくれなければ情報を伝えることができないプル型の情報源なので、積極的に新規顧客を獲得するためにプッシュ型の施策が必要となります。

商圏のサイズや想定ターゲットによって使い方にコツがあるものの、意外と効果的なのがチラシやポスティング・DMです。

チラシ

見えないゴリラの例を出すまでもなくお客様はそこに店舗があることを意外と認識しておらず、プッシュ型のアナログ媒体はお客様の手元にあってメッセージをリマインドするきっかけとなり再認知を促進するのにかなり効果的で、それらから実店舗やホームページに誘導していくのがよいでしょう。

お客様が興味をいだいても、実店舗の外観の印象で入店をためらったり見送る場合も少なくありません。

店頭ボードやPOPメッセージ、店頭ディスプレーやシンボルなどを用意したり、店内の様子をほど良く見せるなど、常時歓迎ムードを演出して入店の不安を軽減し興味を持ってもらって店内に誘引し、また購入・入店の先延ばしを抑止することは非常に重要です。

店頭で時間限定タイムセールや季節・行事・旬を訴えることで、店舗を印象付けられるうえ非計画購買を誘起することもできます。

店頭POP

呼び込みに成功したら、そのあとの関係性を維持するためにお客さんに警戒されないように、メールアドレスをお聞きするなりSNS友達になるなりして、継続的な接触手段を確立し再来店に誘導します。

事業者向け商品の新規顧客開拓の場合(生産財)

中小企業が潜在・見込み顧客事業者に比較的安価にメッセージを伝えるとしたらまずは、展示会や商談会などビジネスイベント、テレアポ、各種DM、業界紙広告、ネット広告、ホームページといったところでしょうか。

もっともビジネスイベントは開催参加手控え傾向はまだまだ続くし、業界紙広告が偶然に顧客の目に留まる可能性はさほど高くはないでしょう。

プッシュ型のテレアポや各種DMは対象を絞り込むことができれば高効率なものの、どう絞り込むか迷惑がられないためにどうするか知恵が試されるところです。

テレアポ

どんなファーストコンタクトであっても、今どきたいていのお客様の最初の反応はホームページの検索閲覧なので、ホームページのコンテンツと導線設計は非常に重要です。

商品やサービスはネットを探せばすぐ見つかるようにしておく必要があり、場合によってはお客様は、ホームページが上手に作られていれば検索でホームページにたどり着き興味を持つかもしれません。

ホームページはここでも不可欠で基本となるネットメディアで、自前のホームページは真っ先に戦略的に整備したい自社のショールームと言えます。

訴求すべきポイントはB2Cと同様に当社がお手伝いすることでお客様のどのような課題がどのくらいコストパフォーマンス良く解決できるか、そして他社との違い・お客様にとって選ぶ理由が訴求されているかどうかです。

B2Bでも今後どんなお客様を新規に迎え入れたいか、そのためにどんなメッセージを発信すればよいか十分に検討し、個々のプロモーションや事業戦略と整合性をとります。

ホームページはまた、お客様の課題を解決するヒントになる資料を請求するためのフォームページなどを作り、会社情報やメールアドレスを獲得するのも重要な機能の一つです。

当初はメルマガやオンラインのビデオセミナーなど警戒されにくく先方の負担が少ない方法で関係性と信頼感を強化しながらニーズを見極め、ある程度課題が把握できたら営業部門が接触を試みるという、昨今はやりのマーケティングオートメーション的なアプローチが有効です。

オンラインセミナー

昨今のB2B取引では、購買プロセスの半分強が営業担当者がお客様と面談する前に終わってるといわれているくらいで、ネット上でお客様の課題の収集にいかに乗り遅れないか、それを洞察できるか、信頼感を醸成できるか、スムーズに商談につなげられるかが勝負、といえそうです。

商談にこぎつけたら、契約できるかどうかはそれはそれとして、さらに次の案件のきっかけをつかむために継続的に接触し、信頼感の醸成に努めます。

消費家向けの新規流通顧客開拓の場合(卸・流通扱い商品)

B2B2Cビジネスで新規に商品を取り扱ってくれる卸し・小売店舗など流通業者を開拓するのは、正直なかなかに困難です。

小売店

とはいっても、流通側も目新しくて売れそうな商品は喉から手が出るほど欲しいわけで、そういう意味ではうまくやる余地は十分にあるはずです。

流通業者のバイヤーが新商品を取り扱うかどうか、その判断基準は端的にいえば「取り扱うことで利益が十分に出るか」ということであって、「利益率の高さ」 × 「商品の売れ行き」の両面で攻めかたを考えることになります。

流通業にとっての利益率の高さは、最終販売価格(消費者価格)と生産コストの間にどれだけ余裕があるか、という課題に行きつくわけで、「商品の消費者が感じる商品の価値・便益=商品力」>「消費者向け販売価格」>「流通業者の仕入れ価格=メーカーの販売価格」>「生産コスト」といった関係でしょう。

以前プロダクト3層モデルで説明したように、商品単体のみならず付帯する便益も含めて商品の価値が決まるので、いかに生産コストを抑えて商品力を高めるか企業の実力が問われるところです。

利益率捻出のところは商品設計開発やデリバリーにかかわるお話なので今回は触れませんが、ある意味企業努力で何とかできる余地があるというか、何とかしなければいけない部分で、機会があったら別の記事シリーズででも改めて考えてみたいところです。

難しいのはどう商品の売れ行きを良くするか、というところです。

商品力が高ければそれなり売れるということで済めばよいのですが、「今お客様(消費者)を悩ませている課題がその商品によってリーズナブルに解決できる」ことをお客様が知らないことには、お客様はお店でお買い上げしてくれません。

いっぽうで、メーカーと消費者の間には深く流通業が横たわっていてメーカーと消費者のコミュニケーションは断絶しがちで、流通を飛び越してお客様に商品の良さを伝えることは非常に困難です。

断絶

そのため、従来はテレビCMや新聞チラシのような不特定多数向けプッシュ型マスプロモーションを使わざるを得ず、消費者に商品メリットを伝えることは中小企業にとってハードルが高かったわけです。

むろん消費者が商品を見ただけで、課題解決できそうに見えれば購入してはいただけるでしょうが、問題はリピートです。

全くの単発の買い切り商品で後のことを考えなくてよければいいのですが、課題解決が伴わない商品やそれを供給した会社商店へのリピートは考えにくく、継続的な売れ行きは期待できません。

それではビジネスが続かないから、近頃脚光を浴びるようになったのがD2C(Direct to Consumer)、製造者が直接消費者と取引したり直接コミュニケーションを行うというビジネス概念です。

D2Cでは顧客をともにブランド育成する仲間(コミュニティ)と位置付けて、SNSやコミュニティで顧客の購買前・購買時・購買後の心理・感情や利用シーンなど把握しながら一緒に商品企画開発をやったりすることで、力を合わせて消費者課題の解決方法を作り上げるような考え方です。

ある種デザイン経営に通じる概念、ペルソナマーケティングの発展形と言えるかもしれません。

具体的にどうすればよいかというと、企業のビジネス内容や環境、成熟度によって最適な取り組み方はさまざまだから一概には言えなくて、いずれにしても本腰いれて消費者と関係性を構築する戦略的取り組みが必要です。

もしもこういう取り組みが全くできていないがまず手探りででも試してみたいのであれば、協力してくれる小売店舗などを確保して、自社商品に好意的な消費者と試行錯誤しながら関係性を築いていくのがいいかもしれません。

いっぽうで、バイヤーのペルソナを研究する必要があります。

どんなタイミングで商品提案が欲しいのか、どんなかたちで提案すればよいか、バイヤーに課せられた任務は何か、つまりバイヤーを悩ます課題は何でどう解決できるかという発想です。

これまで商品の差別化が重要であることをくどくど伝えてきましたが、ターゲットが狭くて売れ行きが見込めにくい差別化しすぎた商品はバイヤーに選ばれにくいかもしれないことには留意が必要です。

まずは特売品向けにスポット採用して、売れ行きの様子を見るのがバイヤーの常套手段でしょうから、それに見合う商品を提案するのが戦術的には有効に思えます。

特売

この際に、すでにどこかでそれなりの販売実績があったり、メーカーとしてホームページやSNS、ユーザーコミュニティなど対消費者プロモーションの仕組みが有効に機能していること、対象セグメントや戦略、商品の便益など売れそうな印象が訴求できれば、採用可能性は高いでしょう。

すでに大企業・中堅企業はこういった取り組みをやっているので業績を上げていますが、中小企業はまだまだ、でもここで取り組むか否かは淘汰選別に生き残れるかどうかと等しいくらいに重大な判断なのかもしれません。

メッセージ送信におけるリスク

お客様に直接プッシュしてつながることができる電子メール・メルマガは、素人さんは過小評価しがちですが実は意外とプロモーション効果があることは以前の記事に書きました。

しかし水を差すようなことは言いたくないですが簡単なようで使いこなすのはなかなか難しい、あるいは時に高リスクな媒体でもあります。

メルマガ作成のコツを外すと開封されなかったり最後まで読んでもらえなかったりするのでそれはそれで残念なのですが、まぁせいぜい努力が無駄になるだけなので、いろいろなところで解説されているメルマガの発信の仕方などを参照して腕を磨けばよいでしょう。

それよりもかなり明確にビジネスリスクになるのが、特定電子メール法と迷惑メール登録です。

あらかじめ同意を得られた宛先以外には広告宣伝メールを送信してはならず、「送信者などの氏名または名称」「受信拒否の通知ができる旨」「受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスまたはURL」「送信者などの住所」「苦情・問合せなどを受け付けることができる電話番号、電子メールアドレス、URL」をメールに表示することなどを求めているのが特定電子メール法で、違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金(法人に対しては3,000万円以下の罰金)を課す、と定めています。

手錠

よほど迷惑になって心証を害さない限り刑事告発される羽目にはならないまでも、法に抵触したメールなのは受信すればわかる事だから、平気で法に抵触する業者、法律とか気に留めないルーズな業者、自分の課題解決の役に立ちそうもない業者、と受信者全員に思われかねないし、信用ははなはだしく低下し受信者が取引する気を失うだろうし、それどころか法律違反をクチコミ拡散されたりするとかなり厄介なことになります。

なお、法律には抵触していなくてもしつこくメール送信するなど心証を害してしまうと、法的罰則はなくともお客様を敵に回すことになるのは言うまでもないことです。

発生頻度は高くはないとは思えるもののさらに厄介なことになる可能性があるのは、そのメルマガを迷惑メール登録された場合です。

それなり多人数が迷惑メール登録しない限り大丈夫だとは思うものの、インターネットサービスプロバイダのブラックリストに迷惑メール発信元として登録されてしまうと、そのプロバイダ傘下のドメインには一切、メールが送れなくなってしまいます。

Gmailアドレスのメール宛先すべてで受信拒否されたり、同じレンタルサーバー/ホスティング業者を使っている多数企業へのメールが不達になったり、同じISPを使っている全ユーザーにメールが送れなくなったり、でも発信者は送信したつもりで届いていないことに気づかなかったり、そういうことが起こるわけです。

世界共通のスパムメールブラックリストというものがあって、登録メカニズムは不明でたぶんリスクは高くはないとは思いますが、これに登録された日にはあまねく世界中のアドレスから受信拒否されたりします。

ブラックリスト

こういったことが普段仕事で使っているメールアドレスで起きたら、メルマガ受信拒否されるだけならまだしも、本当に仕事の連絡のために送った重要メールさえ届かなくなり致命的なトラブルが起きて大損害になりかねません。

情報セキュリティ系ビジネスはしばしば恐怖喚起型の宣伝文句が多用されていて個人的に苦々しく思ってはいるんですが、あまり起きないトラブルだとはいえ、上のようなリスクは正しく認識しておく必要があります。

生き残っていくということ

個人情報保護法は個人情報利用を制限する法律ではなく個人情報の活用を促進することを目的とした法律であること、情報セキュリティはもっとも効率的にビジネス成果を生み出して儲けるための運用の考え方であることは以前説明しました。

もはやITを活用せずに生き残っていくのは難しく、ITアレルギーを起こしている場合ではありません

中小企業の生産性が低く収益性が良くないのは規模が小さいからではないですが、これからは自助努力をして正しい課題認識と手段で経営環境に適応していかなければ切り捨てられてしまう世の中になるでしょう。

どれだけ知識を増やしてもどれだけノウハウを吸収しても、それはビジネスの世界ではあまり通用しないのは事実ですが、いくらやり方をたくさん学んでも、なぜそれをやるのか、何が問題なのか正しく理解したうえで実践しないと、往々にして手段が目的化します。

以前も引用した言葉ですが、「重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである」というドラッカーの言葉をここに再掲したいと思います。

この一連の記事はノウハウではありましたが、なにか集客のヒントや集客に役立つヒントをつかんでいただければ嬉しいです。

補足:補助金・助成金

新規集客したり顧客管理したりあるいは差別化集中するのにも費用が生じますが、その負担を多少なりとも軽減する方策として補助金・助成金の活用があります。

大企業は対象外だし申請手続きや後々の決まり事などのハードルや縛りはあって、申請作業に詳しい専門家の助言なしに合格するのはなかなか容易でないですが、政府が費用あるいはリスクの一定部分を負担してくれる、という意味では応募を検討する余地は十分にあるでしょう。

千両箱

申請する場合には、実はどの補助金・助成金申請でも申請書の記述内容は大きく変わりはしないので、どれでもいいから過去募集があった申請書様式をひな型にして早めに下書きを書き上げて、配慮不足のところや準備しなければいけないこと、その補助金特有な要件を洗い出して準備するのがコツです。

補助金・助成金申請書作成は自社・自店の数年先までの事業計画作成でもあって、常日頃多忙にかまけて将来のことを考える機会がなくなりがちなのを補ってくれるので、意外と頭の整理ができるメリットがあります。

2021年でいうと、事業再構築補助金はまさに事業者が事業を再構築するための新規政策です。

基本的に従来と異なる業種業態のビジネスを始めるための補助事業というイメージで、企業が専門家の助力を受けずに合格することはほぼ不可能だと思いますが、申請を検討する価値は十分にあるでしょう。

この補助金が創設されたということは、痛みを伴う事業改革をしてでも生き残っていく覚悟を決めて不退転の覚悟で取り組みをやらなければ、今後事業者が淘汰にさらされても手厚い保護は提供しない、という政府の方針を暗示しているように個人的には思えます。

※不退転の覚悟とはいいましたがイチかバチかはやめてください、おそらくとても残念なことになりますから。

ちなみに以下は2020年度募集があったもののうち集客や差別化集中に使えそうな制度で、2021年度にも継続されるかどうかは不明ですがどんな感じだったのか調べてみる価値はあると思います。


助成金は要件が合致すればどんな事業者でも合格しますが、補助金はお役所にとって投資のようなもので、税収が増えてつぎ込んだ金を回収できるかどうかが重要な合否判断基準になりますから、申請するにはなかなかコツが必要です。

もし興味があれば、お問い合わせいただければお役に立てるかもしれません。

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