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06 ブルーオーシャンへ漕ぎ出すための戦術群

(2021/12/30)

これまでの5つの記事

で、
といったこと、B2Bでも考え方は同じであることを説明してきました。

不特定多数のユーザーが共通して持つぼんやりした欲求ではなく、上得意になりそうな潜在顧客にしぼりこんだ特定で明確な(でも本人が気づいていないこともある)課題に焦点を当てて、その解決者になることが差別化集中、その課題の具体化の手法としてペルソナマーケティングがある、というイメージでしょうか。

ターゲティング

もっともなにがなんでも特化すればいいというわけではなくて、4R(規模の有効性・優先順位・到達可能性・測定可能性)に配慮しつつ、後に述べるように自社の強みを生かす必要があります。

差別化集中のメリットとデメリット

とはいえ差別化集中することは必ずしもメリットばかりというわけではありません。

といったことは認識しておく必要があるでしょう。

結局、差別化集中をしないと特徴がないから競合と客を取り合うことになり、レッドオーシャン(血で血を洗うような競争の激しい既存市場)から抜け出せない、ということであり、レッドオーシャンで際限なく苦労するのが嫌で抜け出たければ、多少のリスクや苦労を厭ってはいけないということなのです。

レッドオーシャン

ちなみにネットを活用するなどすることで認知を強化することは可能だし、複数のニッチ事業を工夫して行えばそれはそれでリスク分散はできるので、要はやり方次第でしょう。

差別化集中の進め方

大多数のお客さんに共通するニーズだと売り上げがそこそこ期待できて、どうしても大企業はじめ競合が乱入してきて体力勝負のパイの奪い合いになってしまうので、差別化集中は基本的に、一見儲かりにくそうだったり業界の従来常識では解決が難しそうな、言ってみれば従来より半歩困難に踏み込んだような、自社の強みを活かせる顧客課題がターゲットになります。

自社の強みを踏まえずに差別化集中するのは、より強みを持った競合他社がいれば容易に参入され逆転されてしまうということなので、あまり賢明とは言えません

実際の中小企業の戦略設計は、競合がいないか優位に立てる地理的商圏の中でビジネスをするか、あるいはどちらかいうとニッチな特定ニーズ、いわゆるロングテールに特化して広くビジネスをするか、おおむねそんな取り組みになりそうです。

かのドラッカーさんも、著書「マネジメント」のなかで、「中小企業は戦略を必要とする。小企業は限界的な存在にされてはならない。その危険は常にある。したがって、際立った存在になるための戦略をもたなければならない。ニッチを見つけなければならない。」と、表現はちょっと違うものの差別化集中の必要性を説いています。



大企業だとピンポイントにターゲットを決めるよりはむしろ、マーケットの大きなトレンドを先んじて掴み、優秀な戦略設計能力を活かして将来有望な商品カテゴリとその周辺領域を根こそぎものにするようなイメージでしょうか。

ありきたりに見えるビジネスであっても地域の固有の条件、たとえば屈指の豪雪地帯だとか高齢化率が飛びぬけて高いとか、全国平均的な商品やサービスから一ひねりしないと需要者のニーズにこたえられないことは多々あって、そこが中小企業の目の付け所になります。

あるいはマニア向け商材や、日本国内在住の少数民族向けの商材販売などはロングテール事例といえるでしょう。

勘違いしがちなこととして、例えば希少な材料を使ったとかすごく手間暇かけたとか、そういう違いを訴求した商品を見かけることがありますが、お客様にとって競合品と比べて課題解決に秀でた便益が感じられるかどうかが重要です。

なお一言補足するなら、差別化しないともはや生きる道がないように書き綴ってきましたが、ある意味極限まで一般受けを狙うのもまた実は差別化です。

良い例がユニバーサルデザインで、「ユニバーサルデザインとは、文化・言語・国籍や年齢・性別・能力などの違いにかかわらず、出来るだけ多くの人が利用できることを目指した建築・製品・情報などの設計のことであり、またそれを実現するためのプロセスである」(Wikipedia)と多数者に最大限適合することを価値観にしているわけで、一部のお客様の課題解決に特化する訳でなくとも、こういう商品は言うまでもなく差別化されているといっていいでしょう。

プロダクト3層モデル

もっとも、そこまでいかなくても実は差別化はできます。

ひらめき

記事「02 「お客様が欲しいのはドリルではなく穴」を考察する」でちょっと触れたように、プロダクト3層モデルという考え方があって、ビジネスは実際には商材本体の価値のほかに間接的に商品価値を高めお客さんの課題解決に寄与することができる付加価値(付随機能)が備わっていて、お客様はそれを含めた、トータルの課題解決に満足・不満足を感じます。

よく言われる付随機能としてはアフターサービス、設置、納品・支払方法、保証などで、これを強化充実することで差別化できることも少なくありません。

かつて一世を風靡した山形のラスクメーカーは、ラスク自体がおいしいのは当然として、お届け物のラスクが割れていたら無条件で割れていないものに返品交換できるというお約束が躍進の原動力の一つでした。もっともその成功体験から抜け出られず、結局は民事再生することになってしまいましたが。

さほど変哲もない品ぞろえでも自宅近くまで移動販売車が来てくれるのは、買い物困難地域の高齢者にとってはまさに命の綱です。

先に挙げた希少な材料を使ったとかすごく手間暇かけたとかいう商品で、ストーリーテリング(またはナラティブ)なマーケティングで成功することがありますが、これはプロダクト3層モデルでいう付随機能を強化することで情緒的価値を高めることに成功した、きわめて高度でまれな事例だといえるでしょう。

Unique Selling Proposition(独自のセールスポイントのこと)とかコアコンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力のこと)とか、競合他社にまねできない自社だけが持つ強みが差別化集中に必要であるかのようにいわれますが、他地域で珍しくない多少ありきたりなビジネスでも、自分の商圏で誰もやっておらず自社以外だと成功するのが難しいことであってそれにお客さんが価値を見いだせれば、十分に差別化集中といえます。

むろん商圏を広げビジネス規模を拡大していくなり、万一の競合参入を抑止するためには、模倣されないに越したことはありませんが、差別化集中を進めていく中でノウハウがたまれば、模倣困難性は強化されていきます。

また商品ではなく事業活動プロセスを差別化することもできて、エシカル・コンシューマリズム(倫理的消費、環境や社会に配慮した商品を選択)、フェアトレード運動、最近だとSDGsやダイバーシティ経営など、社会課題への会社の取り組みを消費者が応援し、一緒に価値を生み出していくような概念も台頭しはじめています。

強みと弱みを見つける

ではどうすればそのような、一味違う(あるいは自社独自の)商品・サービスや付随機能を見出せるのでしょうか。

結論を先に言えばいたって簡単で、お客さんに聞くことです。

ヒアリング

自分自身では、常日頃さほど意識せずやっていることを客観的に自分の優位性、強み、競合との違いとして改めて意識するのは容易ではありません。

いっぽうで、お客さんはなにか他所にない魅力・課題解決を見出してそれを評価してくれているからリピートしているわけで、実際にお客さんが高評価している魅力は強みであり差別化点に他ならないといえて、それはどんなお店・会社にも必ず存在します。

誰に聞くか、聞いた話からどう本質をつかむか、という情報収集スキルはそれなり必要ですが、お客さんの評価に基づく事実としての強みが把握できます。

強みと併せて聞き取りたいのは弱点で、ただしこちらは不満を言わせればきりがないというか、本質的でない要望事項も出てきて強みの聞き取り以上に精査する必要がありますが、弱みを把握し本来強みで発揮できるはずのお客様へのメリットが減じないよう、せっかくの魅力が台無しになってしまわないよう対策するのは効果的でしょう。

顧客との距離が近いという中小企業の優位性を活かし、具体的には既存のお得意様へインタビュー・アンケートをおこなう、常連客さんの共通項や価値観を見出す、社内の営業担当にもインタビューをおこなう、競合も含めクチコミ評価を調べる、といった分析をやってみるのがいいでしょう。

近頃は大企業でもD2C(Direct to Consumer)といって、自ら消費者とダイレクトに取引してニーズや意見を調査し始めていて、ここでもどんどん中小企業のアドバンテージが覆され始めています。

競合の評判を調べ、自社で無理なくできる長所を真似るのも非常に有効で、もっとも、自社の強みをしっかり補強補完あるいは強みと相乗効果が出る取り組みでないと、集中度がぼやけて曖昧な差別化になってしまうことがあります。

弱点はかならずしも自社で何とかしようと考えず、その弱点にノウハウがある他社と連携し補完してもらって、自社は強みを徹底的に生かすのも手です。

アライアンス

なお差別化集中を進めるうえで、前提として企業理念やミッションを明確にし自社の価値観や目的を再認識しておくことをお勧めするのと、また、SWOT、PEST、5F、3Cなど適切な経営環境分析をふまえ事業計画書を作成して、不確定要素や曖昧さのない計画的な取り組みをすることが重要です。

ものごとがうまくいかない人は、これからやることの作業負荷量の見積もりが甘くて本人にとっての番狂わせがたびたび発生するからだ、という説もあります。

番狂わせは世の常としても、事前にできる限りの情報収集分析を行って、多少の状況変化は想定内にリカバリーできるようでないと、お客様から頼られる存在になるのは難しいでしょう。

ペルソナ

ペルソナの作り方はネットで多数解説されているので省略しますが、新規商材の開発はもちろん、すでにある商品・サービスビジネスの差別化でも、御贔屓客をイメージしたペルソナを作ることは有益です。

仮面

常連の〇〇さんの意見でなく◎◎という価値観を持つ市場セグメントが持つ課題の把握、というように個人情報を抽象化し一般化したとらえかたをすることで、より客観的なマーケティング情報として付随機能の設計や4R(規模の有効性、優先順位、到達可能性、測定可能性)の検証や広告販売の設計に使えるでしょう。

ストーリーテリング(またはナラティブ)なマーケティングでは、お客様の価値観に訴え物語の一員になってもらう必要があるので、ペルソナなくしては成功することはおぼつかないと思います。

B2Bにおいては、購入決裁者は会社の課題を代弁するペルソナであり、購入担当者は最適なソリューションを選んで決裁者に説明し承認をとるという課題を抱えたペルソナであって、さらにいうとそれらとは価値観の異なる商材の使用者というペルソナも考えらるので、うまくバランスをとってそれらをうまく満足させられるように折り合いをつけることも差別化になりうる、ということになります。

最近注目されているB2B営業スタイルにインサイト営業という考え方があります。

少し前まではソリューション営業(顧客のニーズや問題を把握してそのニーズを満たしたり問題を解決したりするような提案を行う)が大事だといわれていましたがある意味その発展形で、「顧客が自身でも気づいていない潜在的な課題を顧客より先に察知して、その課題を解決する方法を提案する」ような営業スタイルだといわれています。

顧客自身気づいていない潜在的な課題を把握するというのは、顧客と同じくらい顧客がやってる業務に詳しくて顧客より洞察が深くないとできないことで、よほど腕利きのコンサルでもなければ正直ムリですが、考え方そのものはペルソナマーケティングに通じるといっていいでしょう。

B2B関係者のニーズにまんべんなく適切にこたえるのは容易ではないですが、逆にそこまでやる競合は少ないでしょうから、うまくやれば連戦連勝になるでしょう。

消費者向け商材であっても、中間に卸売業者や小売店舗など流通業が介在するような商品のメーカー(B2B2C)の場合だと、最終消費者以外に流通事業者のペルソナも考える必要が出てきて、当然消費者の課題と流通業者の課題をいかにバランスよく解決するかが商売繁盛のカギになるといえます。

カスタマージャーニー

カスタマージャーニー(カスタマージャーニーマップ)についてはほとんど触れてきませんでしたが、ペルソナと併用してマーケティングの分析をする手段です。

これもネットで多数記事があるので作り方の解説は省略しますが、ウィキペディアの説明を借りれば、「商品やサービスの販売促進において、その商品・サービスを購入または利用する人物像を設定し、その行動、思考、感情を分析し、認知から検討、購入・利用へ至るシナリオを時系列で捉える考え方である。カスタマージャーニーを設計するためのツールをカスタマージャーニーマップと言う」ということになります。

顧客となるペルソナの行動、思考、感情を時系列に行程表風に見える化し、ちょうどよさそうなタイミングで価値観に響くメッセージを届け、商品へ共感しお買い上げいただいて、課題解決・満足へ至るように関わり合いを設計する手法だと考えてください。

AIDAMAとかAISASとか従来のマーケティングモデルで消費者行動を説明しきれなくなってきたので、ペルソナとカスタマージャーニーマップで具体的な顧客ニーズの特定・ターゲティングから顧客課題解決までのシナリオを作っていこうということです。

アピールの仕方

世の中に数多ある「どれも同じに見える」お店や会社から一歩抜け出れば、お客様の目に留まりやすさは格段に高まるわけですが、でもそのためには他とちょっと違うことを適切にアピールしなければいけません。

そうすることで、どれを選ぶのが自分に最適なのか判断できなくて困惑しているお客様を手助けすることになるわけです。

喜ぶ

アピールのやり方自体はごく一般的な宣伝・広告・拡販活動ですが、昨今ではお客さまの行動の変化と相まって従来より効果的な手法もでてきつつあるので、次回以降説明したいと思います。

それらプロモーションを効果的にやるうえで、差別化集中していること自体が訴求点になるわけです。

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