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03 二兎を追うものは一兎さえ失う

(2021/11/28)

前回「02 「お客様が欲しいのはドリルではなく穴」を考察する」では、お客さんがお買い上げしてくださるのは何かを解決したいからだけど、でも解決方法も提供方法も一筋縄ではいかないということについて考えました。

それでもお客さんの課題(ニーズ)をとらえ解決のお手伝いをするためには、いったいどうすれば良いでしょう?

ちょっと気晴らし兼ねて焼肉屋さんに行ってみましょうか

こういうテーマのときに自分がよく説明に使う事例が、焼肉屋さんです。

焼肉

焼肉って老若男女問わず大好きで、自分も好きなんですけど、この記事を書きながら近頃とんとご無沙汰していること、マイナーな個人店にはいくけどチェーン店にはほとんど行ったことがないことに気づきました。

近頃スタミナが続かなかったり体調を崩したりするは、もしかして焼肉不足なのでしょうか(汗)。

お客さんの好みや課題はバラバラで全員満点はムリ

さて以下のような場合を想像してみてください。

A.小学校低学年の子供連れ家族が子供の誕生日に夕食を食べに行く
B.大学のラグビー部員仲間で試合の祝勝会にいく
C.若い社会人カップルの初めてのデートの夕食
D.初老のちょっと裕福な夫婦が結婚記念日で夕食

どう考えても、それぞれ行きそうな店の雰囲気は異なっているでしょう。
初老の裕福でグルメな夫婦が行くような、高級A5仙台牛ロースをワインを舐めながらちょっとだけ味わうようなお店にヤンチャな子供連れの家族は似つかわしくないし、ラグビー試合の打ち上げなら輸入肉でいいから格安飲み放題食べ放題でどんちゃん騒ぎ以外に考えられません。

高級焼肉

もし選択を誤ると焼肉が好きかどうか以前に、幹事さんは店の選択ミスを後々まで非難されることとなります。

つまり利用用途(=課題、便益)に応じてふさわしいお店のパターンがある、別の言い方をすればお客さんはいくつかの好みが違うグループに分けられて、グループが一致していれば同じ好み・同じ店選びをするけど、グループが異なるとニーズも異なり満足できる店も別々になるのです。

ちなみに同一人物であっても、時と場合によりニーズは異なり別のグループに所属することもあるのはご想像の通りです。

差別化集中する

前回「02 「お客様が欲しいのはドリルではなく穴」を考察する」で差別化集中戦略について触れ、すごく簡単に言えば人と違ったことをして、それを気に入ってくれるお客さんだけにエネルギー集中して商売繁盛するという、中小企業向きの考え方があることを説明しました。

マイケル・ポーターおじさんの基本戦略については各自で調べていただくとして、焼肉屋を経営するなら他店と全然違うことをやるほどでなくても、少なくとも来店してほしいお客さんのグループ(場合によってはおひとり様)のニーズに合った店作りをしないと繁盛しそうにないことはわかります。

差別化集中は、千差万別のお客様の課題に幅広く中途半端に応えるのではなく、ある共通の課題や価値観を持つ一部のお客様の課題を解決することに特化し、少なくともその課題についてもっとも頼りになるお店・会社になる事でお客様の御贔屓を勝ち取る作戦なのです。

セグメンテーション・ターゲティング

お客さん(あるいは潜在客)の集団を課題や価値観ごとにグループ分けし、その特定のグループにビジネスの照準を合わせるやりかたを、マーケティング用語でセグメンテーション、ターゲティングといいます。

セグメンテーション

カタカナで分かりにくく思えますけど、言ってることは簡単で重要なことなので、覚えておいてください。

ちなみにセグメンテーション、ターゲティングは自店舗・自社とお客様の集団との相性関係に注目した考え方ですけど、じゃ競合店舗・競合他社とどう棲み分けして違い(競合では代替困難な独自価値)はどう出すか、という考え方はポジショニングと言う考え方になります。

差別化集中をやるうえで中心になる考え方がSTP(Segmentation:セグメンテーション、Targeting:ターゲティング、Positioning:ポジショニング)だと思ってください。

ネットで「STP」と調べたら1万数千件ヒットしますから、いくつか眺めてみるといいでしょう。

片っ端から新規誘客する弊害

お客さんを絞らないとどうなるかといえば、まぁ大企業なら大部分をそこそこ満足させる馬力もあるし派手に宣伝広告する資金力もありますが、中小企業だと、自社・自店舗のお客さんに向いてない人にまで宣伝することになりはなはだしくムダが生じます。

いつか解説したいと思っているのですが、繰り返し御贔屓いただけるお客さん(リピーター客)を維持するためにかかる費用と、新規客を開拓するための費用を比較すると、新規客開拓には顧客維持費用の5倍くらいコストがかさむといわれています。

ムダ弾を撃ちまくるのは、売り上げが増える以上に利益を減らすだけでしかも労力が増えるのです。

さらに勘違いして来店したお客さんは、中途半端な商品サービスに不満足を感じて、クチコミでボロクソに批評するかもしれません。

よくないね

お客様が持つ課題がそれぞれ様々なのに、それをスッキリ解決できない痒いところが痒いままな商品やサービスでは、それを満足して好きになってくれる人はいないでしょう。

そのうえ既存のお客さんに悪影響が出る場合もあります。

初老の裕福グルメな夫婦が行くような高級店に子供連れが来て子供が騒いだり走り回ったり、ラグビー部員がガサツに大食いしてほかのお客さんに出す食材が次々品切れになったりしたら、昔からの御贔屓客は店が荒れたと思って来てくれなくなるかもしれません。

店に合わないお客さんの来店は、しばしば経営にダメージをもたらします。

対象を絞り込んだら客が減る?

それにしても、お店や会社は一人でも一社でもたくさんのお客さんを獲得したいのに、勧誘する相手を選ぶというのは母数が減る(市場が小さくなる)ということに思えて、それで大丈夫なのでしょうか?

ターゲティング

結論から言えば大丈夫です、というか、この後説明する4Rを意識してセグメンテーション・ターゲティングすればです。

目の前にたくさんの人がいて「そこのみなさんお腹すいてませんか?」と声をかけるのと、「魚出汁ラーメンが好きなアナタ、津軽地方で今年一番売れたダブル煮干し中華そば限定30食あります!」と呼びかけるのではどちらの方がお客さんが喰いつくでしょう。

「そこのあなたたち」だと自分のことかどうかはっきりしないけど、「ニボ中華好きな人」とか「二郎系ジャンキーの人」とか指定されると自分が名指しされてる!という感じで高い反応率になるそうです。

そういえば一時期、ネコも杓子も心酔したランチェスター戦略をご存じでしょうか?

ものすごくかいつまんで言うと、「ダントツの強者でもすべての市場で全勝するのは困難、市場を細分化し、自分が1位になれる地域や領域、ターゲット、商品を作って戦うことで、細かくすればするほど、弱者でも勝てる可能性が高まる」という、ランチェスターの法則のビジネス応用です。

弱者でも勝てるということは、弱者に限らずエネルギーをかけなくてもビジネスをうまく進められるということでもありますが。

セグメンテーション・ターゲティングはそういう理論的な裏付けをすることができます。

ネコと言えば、世の中にはネコの本専門だという本屋さんがあるそうです。

ネコの本

三軒茶屋にある専門書店ではネコに何らかの関係がある本4000冊ほどを取り扱っていて、売り上げの10%をノラ猫の保護に寄付しているのだとか、もと保護ネコ数匹を店員さんに雇ってるらしくて、でもネコ好きの人はちょっとネコラブが尋常ではないから、なるほど言われてみれば繁盛しそうな気がしてきます。

ランチェスターの法則からの補足

オペレーションズリサーチのさきがけの研究であるランチェスター法則は、良く知られているように一次法則と二次法則があるのですが、マーケティングやロジスティクスなど近代的な経営理論で戦うのだとしたら、ビジネスは二次法則に近い近代戦的な勝敗になりそうに思います。

だとしたらたとえばありふれた品ぞろえの個人商店は、逆立ちしても兵力で圧倒的な総合ショッピングセンター△EONと互角に戦うのは命知らず、漫然と戦うなどはもってのほかです。

そこでたとえばプロ用の特定カテゴリに差別化集中した専門店になると、一般消費者の日常生活に必要な物は何でも売っているという△EONの強味は一気に無意味になり、プロ専用だから多数の一般客のご来店は期待できなくなるものの、自分の仕事の道具を買いに来る職人さんのための店として小さな市場のシェアを100%とることができるのです。

包丁

実際△EONって、食品や日雑や衣料やいろいろ一気にまとめて買うには便利なのですが、何となく安物ではないが高性能でも高級でもないどっちつかずでありきたりな商品の品ぞろえのような気がしなくもないのです。

とはいえ近頃では市場ニーズはどんどん細分化が進んでいて、圧倒的兵力の△EONでも強者の戦略が取りにくくなってきているようにも思えます。

大企業でも弱者の戦い方を探求するご時世になってきているともいえて、でも大企業が戦い方を学び始めたら、果たして弱者が生き残る道はあるのか、暗澹たる気持ちにならざるを得ません。

ちなみにランチェスター戦略とは差別化集中することだと言っている巷の説明も散見されますが、ポーターが差別化集中戦略を唱えたのは1980年、いっぽうランチェスターの法則は1914年に発表されているから、差別化集中の概念はランチェスターの法則を発展しているのだと説明するのが正しいのです。

セグメンテーション・ターゲティングの4R

むろんビジネスになりそうもない(収益性が見込めない)お客さんだけとお付き合いしても、お客さんは課題解決して嬉しいかもしれませんが事業として長続きしないでしょう。

お客さんを絞るとしてもこの基準で対象を考えましょう、というのが4Rです。

ターゲット顧客を具体化する

以上のような考え方に沿って、これから新規にお付き合いしていただきたいお客さん、潜在客から見込み客に引き上げたいお客さんを具体化します。

どのようにお客さんを分類してグループ分けすればよいか、それはビジネスの内容や会社・店舗の特性によって切り口が違うし、あとで述べるようにここで一般論的な解説をするのは困難です。

事業者間取引(今後B2Bと略記することがあります)の場合は、たとえば今取引している顧客企業さんが属している業界団体の名簿とか、過去に展示会ブースに来て名刺をいただいた会社の一覧から抽出するとか、比較的効果が期待できそうな絞り込み手段はあるでしょう。

名刺交換

差別化集中まではしない顧客開拓であっても、そういう集団ならそれなり脈がありそうに考えられます。

電話帳から訪問リストを作るとか飛び込みセールスとかだと、どうしても興味を持ってくれるお客さんの比率が少なくなるので、いかに有望な潜在客をリストにできるか、そのためにどれだけ知恵と汗を出せるかが勝負になるでしょう。

対消費者ビジネス(今後B2Cと略記することがあります)は不用意に個人情報を収集すると個人情報保護法に抵触したり、抵触しないまでも神経質な消費者から違法ではないかと痛くもない腹を探られるので、細心の注意を払って名簿を作るか、次に説明するように個人を特定しない形で顧客像を作っていく必要があります。

もっとも個人情報保護法は、勘違いされがちなのですが個人情報の利用を制限する法律ではなく、模範となる取り扱い方を示すことで個人情報の有効利用を推奨促進するための法律であって、個人情報を正しく有意義に活用することこそが法の精神を尊重する事にほかならないのは覚えておいてください。

どう店・会社の特色を出すか

顧客像の絞り込みとあわせて、自社・自店舗はそのニーズに適合できるように特徴を強化していかなければいけません。

というか、実際には自社の特徴の設定と顧客の絞り込みをいったり来たりしながら、4Rを検証つつフィット感の塩梅を見て微調整したり方針変更していく、といった試行錯誤的な取り組みが現実的なやりかたになるでしょう。

みんながどんな風にやってるのか、次回見てみましょう。

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