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02 「お客様が欲しいのはドリルではなく穴」を考察する

(2021/11/28)

前回「01 売れないワケを原点に戻って洞察する」では、お客さんが財布の口を開けるのは、お客さんが商品やサービスに課題解決できるというお値段以上の価値(便益)を見出してそれを手に入れる必要性を認識しているときであることを説明しました。

今回は、顧客にとっての課題あるいは便益とはなにか、少し掘り下げたいと思います。

客が欲しいのはドリルではなく穴である

マーケティングの世界で「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という古くから知られた名言があります。

ドリル

厳密には本人はこのような言い回しはしていないらしいのですが、前回触れたようにお客さんは商品そのものが欲しいのではなく商品の「便益」を購入するのだということを説明する言葉として、ほぼ知らないマーケターはいないくらい有名な言葉になっています。

この後の布石のために補足しておくと、穴が欲しいお客さんは、穴が開けばいいというだけでなく、たとえば簡単にあけられるとか、綺麗にあくとか、ごみが出ない、といった付加価値があるとより入手したい気持ちを強めます。

穴を開けるのにてこずるとか綺麗にあけられないとかゴミが出るとか、新しい課題に直面せずに済むからです。

クイックルワイパーのヒットの本質

クイックルワイパーというモップ型の床掃除道具はご存じでしょうか?

クイックルワイパー

電気掃除機が99%普及しているにもかかわらず大ヒットした床掃除商品ですが、なぜ電気掃除機があるにも関わらず大ヒットしたのでしょう。

実はこの商品に課題解決の光明を見出したのは、乳児子育て中のお母さんでした。

子供が寝ている間に静かに手早く掃除を済ませられる、つまり騒音が出なくて子供が目を覚まさないから自分の時間を作ることができ自分を取り戻すことができる、というのがこの商品のヒットの引き金でした。

この場合、解決したい主課題はいうまでもなく部屋が掃除できれいになることですが、静か・手軽・短時間といった付加価値(これを機能的価値と言ったりします)があることによって、ゆとり・自分の時間・明るく前向きな生活といった心理的な価値(これを情緒的価値といいます)を生み出せることがヒットにつながったのでした。

お客さんが欲しいのは手段や道具ではなく結果

ドリルではなくて穴、フローリングワイパーではなくて綺麗な部屋と充実した自分の時間、高級外車ではなくステータス、ときに商品の機能とかけ離れたところにお客さんが便益を見出すことが少なくありません。

商品そのものの優位性で他社他店と差をつけられれば決定的ではあるけど、お客さんが欲しいのは商品そのものではないから、売っている商品に違いがなくても自社・自店舗を選んでもらえる工夫をする余地は十分にあるわけです。

ここでは詳しくは説明しませんけど、マーケティングの世界ではプロダクト3層モデルという考え方があって、商品は実際には商品本体の価値のほかに間接的に商品価値を高めお客さんの課題解決に寄与することができる付加価値(付随機能)が備わっているのです。
製造業でいえば、たとえばお客さんへの提案力とか納期遵守・緊急対応力、見積回答の速さとかでしょうか。

付随価値は必ずしも商品そのものでもその一部でもないので、後付けすることができて独自の優位性に育てられる可能性があるといえるでしょう。

逆に言えば、いくら良い商品を扱っていても、接客とか梱包のちょっとした不具合でさえ致命傷になる事がある、ということでもあります。

プロダクト3層モデルについては、ご興味ある方は調べてみてください。

自社・自店は何を求められてる?

では自社・自店舗はどうなれば、あるいは商品をどうすれば、これまで付き合いのなかったお客さんに選ばれたくさんの新規客を迎え入れられるようになるんでしょう?

結論から言えば、すいませんが貴社貴店の状況がわからないので何とも言えません。

ただたぶん、今お付き合いされてるお客さんでさえ十人十色で価値観がほぼ全員異なっていてあちらを立てればこちらが立たず、購入品を配達してお欲しい人もいれば、自分で持って帰るから駐車場を拡張してほしいという人、ネット注文できるようにしてほしい人、このうえ新規客さんにイチイチ対応していたらきっと収拾がつかなくなるだろうと思います。

実は大多数の人を満足させるのはとても難しくて、むしろその方向を目指すとかえって大多数の人に中途半端さを感じさせ不満を持たれることになってしまうのです。

お客さんを絞り込んで効果的な集客を仕掛ける

ではどうすればいいか、中小企業が生き残る道はずばり、差別化集中戦略です。

マイケル・ポーターという偉いおじさんが説明しているビジネスへの取り組み方の一つで、すごく簡単に言えば人と違ったことをして、それを気に入ってくれるお客さんだけにエネルギー集中して商売繁盛するという、中小企業向きの考え方です。

むろん大企業も、集中するのはちょっと難しいかもしれませんが差別化することはとても有効です。

絞り込み

次回以降でそれがどんな考え方なのか、どんなお客さんとどんな付き合いかたをすればよいのか考え、そのあとで効果的な集客手法について考えていきましょう。

あとに述べるように、判断を簡略化してなかば直感的に購入するような場合も少なくないものの、全く必要性のない商品を購入することは稀だろうし、選択肢がある場合に全く初めての商品を理由なく比較検討もせずに購入することも考えにくいことです。

お客さんは買い物の時には、商品を比較検討して便益の高さを期待してものを買うという傾向が強いだろうから、差別化することは購入後の課題解決だけでなく購入意思決定にも有効に働くと考えてよいと思えるのです。

貴社・貴店は、どんなお客さんを相手にビジネスをしているのか、競合と比べて商品にどんな特徴・お客様から見た便益があるかそれをどうアピールしているか考えてみてください。

優位差を意識せずに購入されるケース

補足しておくと、違いがないと全く選んでもらえないかというと、必ずしもそんなことはありません。

消費者の買い物でいえば、実は購入品の半分から8割は非計画購買、つまり衝動買いだといわれています。

全くの衝動買いだったり、自宅の備蓄がないことを思い出したり、売り場の掲示で興味をもったり、どのブランドを買うかは現地で決めるつもりだった、といった場合で、この場合の商品選びは少なからず買い物の時に見聞きするプロモーションの影響をうけます。

どの商品ブランドを選んでも違いがさほど感じられないいわゆるコモディティ商品の購入も、プロモーションの影響を受けてヒューリスティック(≒直感的)に選ばれやすい傾向があります。

消費者の関心が低い、いわゆる低関与商品もヒューリスティックに選ばれやすいものです。

低関与になりやすいのはやはり低価格でどれを選んでも似たか寄ったかなコモディティ商品ですが、複雑だったり理解しにくい商品、たとえば生命保険とか高齢者にとっての高度電子情報機器などは合理的な判断をしづらく、お勧めに従いやすいとも考えられます。

ビジネスで物品を調達する場合は調達基準や決裁があったりするので、消費者が購買行動をするときより比較検討が念入りに行われ、差別化は有効に働くでしょう。

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