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02 経営戦略はすなわち業績向上の定石

(2023/10/03)

会社業績を向上する理論として経営戦略の概念が最初に提唱されたのは1960年代、以降その時代の経営環境に応じて戦略理論にも栄枯盛衰がありました。

人的資本経営も業績アップを目指しているからやはり経営戦略理論の一部であり、正しく運用するためには経営戦略の全体概念に立ち戻って位置づけを理解しておくことが有益です。

この記事の内容は当ホームページ「経営戦略の系譜」記事重複する部分もありますが、どうなぜ戦略フレームワークが変化して今に至り、改めてなぜイノベーションが希求されるようになったか振り返ります。

初期の経営戦略フレームワーク

初期の経営戦略フレームワークは、ポジショニング・ビュー(市場の中でいかに有利な事業領域を選択するか)からの考え方になっていました。

アンゾフ・マトリックス(あるいは成長ベクトル)

企業組織の戦略的意思決定プロセスを定形化し、体系的に整理したイゴール・アンゾフは、1965年にアンゾフ・マトリックスで市場浸透、新市場開拓、新製品開発、多角化の4象限でビジネス戦略を説明しました。

もっとも後世になってようやく再認識されることになったようで、当時は経営者の属人的な才能に依存しがちなまま次の時代を迎えたといいます。

当時のアメリカは第二次世界大戦の復興景気の真っただ中で、成長するマーケットの中でいかにビジネスチャンスを先んじて見出すかが勝負だったということです。

成長ベクトル

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(あるいはBCGマトリックス)

第二次世界大戦後の経済成長が止まり、企業は過度に膨張多角化した自社の事業の再構築に迫られるなかで、競争に負ける可能性が高い事業から撤退し成長可能性が高い産業に資源を集中する戦略フレームワークとしてBCGマトリックスが提唱されました。

もっとも市場成長と自社事業成長が連動すると仮定し、習熟効果を主な根拠にし単純化されたモデルで、企業間競争や製品の多様化・ライフサイクルなどは考慮されず、シンプルに投資抑制・キャッシュ回収(金のなる木)、積極投資(花形)、将来性見極め(問題児)、撤退(負け犬)に整理されていて、シンプルな選択集中の目安でしかなかったといえます。

BCGマトリックス

ポーターの基本戦略

不完全競争の理論や産業組織論を発展させたポーターは、業界内で自社を特定の戦略グループ(差別化・コストリーダーシップ・集中)にポジショニングすることで、企業が業界他社と異なるパフォーマンスを得られる可能性を示しました。
現在選択している事業領域でいかに競争に打ち勝つかという観点で、産業構造変化の理解やファイブ・フォース分析による決定を重要視しました。

ポジショニング・ビューフレームワークからリソース・ベースト・ビューへの過渡期、といえるでしょうか。

ポーターの基本戦略

最近の経営戦略フレームワーク

その後、自社内の経営資源が競争優位をもたらし勝敗を決するという考え方のリソース・ベースト・ビューが主流になっていきます。
産業構造の分析に基づいて自社のポジショニングを議論しているうちに、事業モデルや技術標準にイノベーションをもたらす新規参入者が市場を席巻するようになり、外部環境の分析だけでは持続的な競争優位を確立できなくなったからです。

資源ベース理論

価値があり、希少性があり、模倣可能性が低く、代替可能性も低い企業内部の経営資源が、競合との差別化(異質性)を実現しそれを持続させること(固着性)につながるので、それが持続的な競争優位の源泉であるとしたのがバーニーで、1990年頃提唱されました。
もっとも、競争優位のために手に入れるべき内部資源は知識、プロセス、人材、ネットワーク、能力などであるといわれながら、「それらを手に入れるために必要な資源」の獲得方法はいまだ特定されていないようです。

内部資源

ダイナミックケイパビリティ

企業内部の経営資源(オーディナリケイパビリティ)が競合との差別化を実現し競争優位の源泉となるものの、その状態と環境とが乖離していないかどうかを常に批判的に考察し、環境と現状とを適合させる能力がダイナミック・ケイパビリティであり、「進化適合力」といえます。
資源ベース理論では経営環境変化に追従できなくなって提示された概念ですが、まだ定説が定まったと言えない概念でもあります。

ダイナミックケイパビリティはイノベーション能力

1997年に提唱され、近頃ようやくおぼろげながら概念全体像が固まりつつある、といってもいい発展途上の考え方を説くのもお勧めするのもいかがかとは思いますが、昨今の先が見通せない経営環境を乗り越えるには、経営環境変化を前提にしたフレームワークを自分なりに使いこなすしかないでしょう。

ただ実際いまだ諸説紛々で研究者の主張も十人十色、百人百様なので、ここで確たることはとても言えるものではなく、まずはいろいろな見方考え方について、組織能力論の発展と課題(長村 知幸 酪農学園大学紀要 人文・社会科学編 44(2) 61-69 2020年3月)、組織能力構築に向けた組織能力の捉え方(小出琢磨  中国学園紀要 17 255-268 2018年6月16日)、ダイナミック・ケイパビリティの階層的理解:序説(石坂 庸佑 九共大紀要 第10巻 第2号 2020年3月)あたりで理解していただくのがいいかなと思います。

もっともこれらを読んでも余計にわからなくなるという気もして、もう少し実務寄りな主張で国の産業振興方針でもある、企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化(製造基盤白書(ものづくり白書)2020年版 第1部 第1章 第2節)を参照するのが多少わかりやすそうなので、以下ですこし整形して引用します。

▼▼▼ ものづくり白書引用/ここから ▼▼▼

企業のケイパビリティは、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」の2つに分けることができる。

オーディナリー・ケイパビリティとは、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力のことで、労働生産性や在庫回転率のように、特定の作業要件に関して測定でき、ベスト・プラクティスとしてベンチマーク化され得るものである。

オーディナリー・ケイパビリティとは「ものごとを正しく行うこと」にあたるが、企業の戦略行動や業績を決定している企業固有の資源(自社の強み)は、環境や状況が変われば不適合なものとなり、企業の硬直性を招き、かえって企業の弱みへと転じかねない。

重要なのは、現状の企業行動が、環境や状況の変化に適合しなくなったかどうかを常に批判的に感知し、適合しなくなったと判断したならば、適合するように企業を変革することであり、ダイナミック・ケイパビリティは「正しいことを行うこと」、敢えて訳語を当てるならば「企業変革力」といえる。

ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことといえる。

▲▲▲ ものづくり白書引用/ここまで ▲▲▲

ということで、ものづくり白書のこの記事のオチはデジタルトランスフォーメーションの勧め、つまりイノベーションないし変革への誘導になっています。

少し前に「両利きの経営」という概念が流行りましたが、オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの概念がその元ネタなのです。

両利き

ダイナミック・ケイパビリティ理論は最新でもっとも企業繁栄の真理に迫っていそうでありながら、歯がゆい所は、ダイナミック・ケイパビリティの本質が何でどうすればその能力を獲得し発揮できるか理論的にまだ確立されていないことで、とはいえいくつか部分的な知見は明らかになりつつあります。

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