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経営戦略課題の解決処方

(2021/07/07)

ここでは、現在の標準的な経営戦略フレームワークに準じて作られる戦略が抱える課題について、その解消方法を考察してみます。

課題は大きく分けて、フレームワークそのものが持っている不備と、フレームワーク自体は悪くないんだけど運用方法が未熟だったりそれ以前のところにそもそも課題がある場合があるでしょう。

記事「最近の経営戦略とその課題」であげた経営戦略の課題は、

・企業倫理~経営理念~ミッション~ビジョン~戦略の一貫性
・経営者の資質・マインド
・株主による適切な監督
・経営戦略というものの曖昧さ
・戦略実行指針の不明確さ
・創発的(≒あいまい)になりがちな国民性
・経営環境変化の激化
・戦略マネジメントスキルの低さ
・社員の参画意欲の低さ

でした。

(ほかにも思いついたら素知らぬ顔をして追加していきます)

それにしても、こんなに課題があっては戦略がうまく実行できなくてあたりまえな気もしてきます。

解決方法を書き始めるととんでもないボリュームになるので、ここでは簡単に考え方・方向性だけ触れることにして、具体どう対策すればよいかについては別途記事を起こしたいと考えています。

戦略フレームワーク自体の課題の解決処方

(2021/07/07)

さて上記課題のうち、経営戦略の考え方・立案手法つまりフレームワーク自体に改善の余地があるとか環境と乖離して支障が生じていそうだ、といえるのはどれかといえば・・・・

「戦略実行指針の不明確さ」
「経営環境変化の激化」

だけなような気がします。

戦略実行指針の不明確さ

経営戦略はえてして、方向性とか目標は示していてもそれを実現するのに具体的に何をどうすればよいのか、個々の戦術やオペレーション方針にブレークダウンしたものが示されることは多くはないようで、経営戦略立案を教える教科書でも、立てた経営戦略を具体的にどう実行計画に落とし込んで各部隊の末端まで周知していくか説明していることは、意外と少ないように思えます。

なぜ、経営戦略は言いっぱなしになってしまうのでしょう?

戦略フレームワークを考えだした賢人たちも、実務に落とし込む方法論が欠落していては実効性が低いのは重々承知しているに違いありません。

ということは何らかの理由で、汎用的・一般論的な落とし込み方法が作りづらいということなんでしょうか。

戦略系フレームワークの一つにバランススコアカード(BSC)というのがあって、これは経営戦略の立案~戦略実行マネジメントまで包括した考え方です。

※BSCは戦略を立てるためのフレームワークとしては運用負荷が高いと考えられがちなのですが、自分はむしろ戦略実行の進捗管理にこそ有効なツールだと考えていて、うまく使えるスキルさえあればメリットは高いと思っています。

もっともBSCでも、「重要成功要因の選定」→「業績評価指標(KPI)と目標の設定」→「アクションプランの作成」あたりはかなりざっくりした手順提示にとどまっていて、重要成功要因を抽出するための因果関係の分析とか、アクションプランへのブレークダウンの仕方とかまでは深入りしていないように思います。

戦略を立てるために必要な知識体系と実装するための知識体系が別物というか、両方できるのはかなりスーパーな人で滅多にいないということなのかもしれません。

重要成功要因は、そのビジネスに詳しい人が特性要因図とか連関図法などで洗い出すなりして各々の寄与度をふまえて見出すのが正しいのでしょうが、直感的に戦略マップを描きがちになることもあるかもしれません。

アクションプランは、ここでは詳しい作り方には触れませんが、スケジュールとかコスト、実行品質、リスク、関係者などのマネジメントを適宜行いながら

1.立ち上げ
目標設定、納期、予算、制約条件やリスクなどの把握
2.計画
タスク洗い出し、作業スケジュール・実行順・必要時間の見積もり、スケジュール管理方法決定など
3.実行
タスク実行者の割り振り、タスク実行
4.監視・管理
進捗状況監視・管理
5.終結
完了処理、振り返り評価

といった手順で戦術設計~実行することになるでしょう。

タスク洗い出しは目的や目標などを踏まえ適切な粒度で行うのが大事で、実業務知識と分析能力と専門スキルが問われるところです。

重要成功要因の見出し方にしてもアクションプランの作り方にしても、たぶんそれだけで楽に書籍数冊くらいの情報量になるので、ここではこれ以上は触れません。

かんたんにまとめると、実行指針作成手順をも含む経営戦略フレームワークは確かにあまり見当たらないものの、実行指針作りはそれはそれでやり方があって、もっともそれをやるにはかなり力量が問われるということです。

経営環境変化の激化

経営環境は変化してあたりまえといえばあたりまえで、それにどう追従するか考えるのがそもそもの経営戦略だという気もして、変化が激しくなってうまく運用できなくなったから立案手法に欠陥があるというのは微妙に筋違いな気がするんですけど、立案手法にも歩み寄りの余地はありそうな気がします。

戦略策定プロセスでは将来的な経営環境変化についてPEST分析結果をもとに5フォース分析で検討することになっていて、その勘所は中長期的な将来を3~5年後と想定し、その時のマクロトレンドの仮説を立てるのが定石なようです。

しかし中長期計画と同じスパンで将来予測をしてもその後PESTがごろっと変わってしまってはその先の未来の危うさは否めませんし、そもそもそのPEST予測自体がすごく不確実で、裏をかかれることもないとはいえません。

これに関してポーターは競争優位の戦略のなかで、未来予測の不確実性はシナリオ分析を用いることで対応できると解説しているそうです。

アレが起きたら我が事業はどうなる、ソレが起きたらどう影響を受ける、というシミュレーションを、楽観見通し/悲観見通し/中間の時のように幅をもって何パターンか想定してリスク分析する、フォアキャスティングなスタイルの将来予測です。

社会・経済の変化、テクノロジーの進化、地政学リスクの高まり、環境・社会問題への対応の必要性といった不確実なトレンドを現在起点で未来に向かって検討する考え方といえそうです。

いっぽうで、202X年に新型コロナが世間を騒がせましたが、感染再拡大~緊急事態宣言発令~事業ダメージ、のようなどちらかいうと突然単発で起こる不確実要素だと、シナリオ分析ではうまくカバーできないかもしれません。

そういうときには、過去に受けた類似ショックの時の影響や損失等を参照し、ショックはどのくらいの可能性で起きそうか、その時どのような連鎖が起きそうでどのくらい困るかを想定し対処を考えるのがよさそうです。

昨今注目されていそうな将来予測としては、たとえば20年後の社会がどう変わっているかまず考え、次にその社会において自社が存在意義を発揮している姿はどんな姿なのか考え、今から何をすればそれに近づいていけるか考える、というやや遠い未来を起点に現在にさかのぼるバックキャスティングな考え方があります。

経営環境は変化してあたりまえだという前提で経営戦略立案に社会変化要素対応を組み込まないといけない、そうすることで変化や不確実性に耐えうる経営戦略を作ることができるということです。

もっとも今まで以上に策定に負荷がかかることになるし手法習得にそれなりコストがかかるので、それとどういい塩梅でバランスをとるか、手腕が問われるのは言うまでもありません。

とはいえ、自分自身がやるかどうかは別にしてそれに取り組むことこそが、混迷期のリーダーの役目なのです。

戦略フレームワーク以前の課題の解決処方

(2021/07/07)

たぶん経営戦略実行における課題の原因の大部分はフレームワーク以外のところにあって、その対処法については別途詳細解説するつもりで、ここではあまり深入りせず簡単に俯瞰したいと思います。

企業倫理~経営理念~ミッション~ビジョン~戦略の一貫性

多くの会社は「世の中のためになる事をする」とミッションを掲げていながらミッション浸透定着はなおざりにしつつ、「今月の収益ノルマ○○万円」はゴリゴリ押し付けていることがしばしばで、つい企業倫理も理念も消し飛んで、ミッションと現実の乖離にわだかまりを感じながらとにかく短期的な成績を追究しさえすればいい気になりかねないこともあるでしょう。

戦術やオペレーションに至るまでの一貫性の重要性については、広く認知された考え方ではないけどミッションマネジメントという概念でだいぶ前から指摘されてきました。

昨今ではパーパスマネジメントというやや従業員満足も加味したような考え方も注目されていて、これは自分と組織は何のために存在しているのか/どのようにうまく存在意義を実現するか、というようにポジティブに個人と組織の価値観共栄をはかるような考え方です。

世の中のためになる行動を正しく褒められる人事制度、世の中のためになりつつ収益と両立できる経営戦略、倫理的で正しい価値観に基づく理念浸透、といったものが企業の文化や制度として必要です。

経営者の資質・マインド

いうまでもなく社長は従業員の鑑、従業員がだらしないのは社長の不徳の致すところに他なりません。

「経営」の経は仏教のお経の経ですが、お経というのは真理をしたためた書のことであり、経営というのは真理を求め続ける営みという意味なんだそうです。

社長が人一倍学び、企業倫理・経営理念・ミッションを敬虔に自ら率先垂範し、その重要性・意義を説き続けない限り、ビジョンや戦略は従業員の腑に落ちることはなく、社長の思いは伝わらず、世の中から必要とされる会社にはなりえないでしょう。

株主による適切な監視

企業が株主を選べるわけでもないし株主を教育できるというものでもないですが、短期的な投資の見返りを求めるのでなく長期的な存在意義の実現に賛同して協力してくれる株主は、部外者の目で経営を俯瞰してくれる貴重なパートナーです。

いい関係の構築のために、適切なコミュニケーションや協力体制づくりが必要でしょう。

経営戦略というものの曖昧さ

記事「経営戦略とは」にも書きましたが経営戦略はそもそもわかりにくい概念で、経営について学ぶ機会の少ない従業員にはなおさらなんだかわからないものだったりします。

あまつさえ、実行指針が不明瞭だったり、後に述べるように中間管理職のマネジメント能力に向上の余地が多々あって戦略を適切に職場に展開できなかったりします。

戦略立案、周知伝達、実行管理、実行は往々にして分業されすぎ意思疎通も連携も不十分で、適切な周知がなされない事も多いでしょう。

企業倫理や経営理念から戦略や戦術、オペレーションまでの整合をとって、適切に周知する仕組みが重要です。

創発的(≒あいまい)になりがちな国民性

ここで指している「創発的」は、「必要欠くべからざる情報を入手できない事業初期段階に積極的にダブルループ学習しながら戦略を固めようとする姿勢」ではなくて、単にあいまいな状態のことです。

そもそも日本人は昔々から戦略思考が苦手なのだそうで、加えて論理思考が苦手だという意見もあります。
論理思考が苦手なのは国語教育の問題だという説があって、これについては別途解説したいところです。

創発的とあいまいはそもそも異なる特性なのですが、それを一緒くたにして阿吽の呼吸という響きのいい言葉でごまかして責任逃れしているような気がします。

契約社会の欧米では求職時や人事評価のために、職務定義書なるものが職場に整備されていると聞きますが、日本では仕事の定義が公式化されずに俗人化していることが少なくありません。

新型コロナのあおりでリモートワークが普及する中、労務管理に悩む会社が多いそうですが、その理由は職務定義が不十分で、ワーカーが生み出す労働価値と労働負荷量の関係が把握できていないことにあります。

リモートワークで生産性が下がるというのは、主にタスクワークではなくチームワークで起きる問題でしょうが、チーム内のコミュニケーション手段や役割分担があいまいだと、フェイス2フェイスの時のようにアドホックにメンバー連携するのが非常に困難になります。

人のことは言えませんが、タスクの内容を過不足なく文章で表現するのは確かに面倒な作業で苦手な人は少なくないでしょう、ましてや曖昧に思える経営戦略を論理的にかつわかりやすく手順書にするのは大変ですが、物事をあいまいにしないことが従業員の意識や責任感の府落ちにつながります。

戦略マネジメントスキルの低さ

優先度の高い経営課題を尋ねるアンケートでよく上位にランクインするのが、中間管理職の力量不足です。

ロクに学ばずに無為に年を取った中年を弁護する気もないですが、会社が何を期待しているか、そのためにどんな力量が必要か、具体的にどんな行動をとれるようになってほしいか明確にせず、どうすれば学べるか助言せず学ぶ機会の提供も怠ってきた会社側の責任は決して軽くはないと思います。

もっともこれも、今後会社がどういう方向に進むか戦略を明確にしたうえで、社内人材をその戦略実施に適合するように育成開発する必要があって、管理職が育っていないというのは企業戦略・人材戦略の不備に他ならないでしょう。

社員の参画意欲の低さ

戦略実装・実行の担い手である従業員が戦略実行に前向きに取り組むためには、本人の現状維持バイアスより強い動機付けが必要になります。

メンバーが積極的に戦略実行に関わるかどうかは「戦略のマネジメント」と「人・組織のマネジメント」が影響を与えていて、戦略を生かすも殺すも従業員のモチベーション次第です。

産業・組織心理学では何十年も前からモチベーションと関係の強いコミットメントの重要性が指摘されていて、コミットメントが低くなる原因はかなり明らかにされていますが、因果関係が複雑なので「これで解決できる」ようなソリューションはなくて、企業ごとにシステマチックに原因を探って反応を見ながら対策していく必要があります。

コミットメントと類似概念のエンゲージメントを強化するという心理ソリューションには科学的根拠の乏しい嘘っぱちも少なからずあって、まぁそれでもなんとなく意欲がわいたような気になれば、「イワシの頭も信心から」ではないけど多少は足しにはなるかもしれないですが、でも盤石な経営基盤の足しにはとうていならないでしょう。

人材や組織の開発はもっとも基本的で重要な経営課題であり、あらゆる面からまさに戦略的に取り組む必要があります。

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