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経営戦略の系譜

(2021/06/10)

昨今ではVUCAで経営環境が見通せず経営戦略を立案するのが難しくて、立てた経営戦略の有効性まで懸念が持たれる状況になってきていますが、こういう状況は実はとりたてて珍しいことではありません。

時代時代で最先端な経営戦略のモデルといえるもの、いわゆるフレームワークがあって、それは時代・経済の変化とともに環境と乖離しはじめ、次のフレームワークにとってかわられてきたのです。

ここでは、経営戦略のフレームワークがどのような背景で生まれ、どう経済が変化して次世代フレームワークに座を譲ったのか、現在もっとも広く使われている戦略フレームワークまでの変遷をたどり、戦略というのは時代にあわせて世代交代していくことを振り返ります。

実をいうとこのコーナーの記事は、慶應義塾大学総合政策学部准教授の琴坂将広先生のネット記事(経営戦略を読み解く〜実務と理論の狭間から〜)を大いに参考にさせていただいていて、ちなみに他コーナーの記事を作るにあたっても多くのヒントをいただいています。

ボリューミーで緻密なワークで正直読むのにかなりエネルギーを使いますが、経営学(特に経営戦略)に興味がある方には一読以上の価値があると思います。

ここでは琴坂先生の記事を大幅にデフォルメ&ダイジェストしたサワリの部分だけを、まさに美味しい所取りで記述していますので、正しくもれなく体系的に知りたい向学心に富むかたはぜひ元の記事を読解してください。

主要な経営戦略理論の変遷

(2021/06/10)

主要な経営戦略理論は、だいたい事業が多角化されている状況での企業戦略についての議論だと考えていいでしょう。

企業経営の議論で戦略という用語を初めて使用

(アルフレッド・チャンドラー/1962年)

経営戦略を体系的に整理しようとする試みではなく、歴史事実のなかでの経営環境、戦略、組織の関係を「経営戦略と組織」のなかで明らかにした。

書籍

アンゾフ・マトリックス(成長ベクトル)

(イゴール・アンゾフ/1965年)

製品と市場が新規か既存か、という切り口で事業の成長の方向性を市場浸透、新市場開拓、新製品開発、多角化の4象限に分類。

成長ベクトル

それまで巨大な企業組織の戦略的意思決定プロセスは明確に定形化されていなかったが、組織は事業環境の分析から自社の方向性に関する戦略的意思決定を行い、それをベースとして予算をはじめとする行動計画を定めるべきだと主張、営利組織の経営戦略を分析的かつ体系的に整理した。
もっともこの段階では、戦略的意思決定は経営者の属人的な才能に依存しがちなまま次時代を迎え、ある意味アンゾフ・マトリックスは後世になってようやく再認識されることになる感じ。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(BCGマトリックス)

(ボストン コンサルティング グループ/1970年代)

縦軸に市場成長率、横軸に相対的市場シェアを取り自社の各事業を4象限に分類し、投資抑制・キャッシュ回収(金のなる木)、積極投資(花形)、将来性見極め(問題児)、撤退(負け犬)という対処を各々提案した。

BCGマトリックス

1970年代初頭までの戦後復興の経済成長が1973年の第一次オイルショックで停滞し、企業は過度に膨張多角化した自社の事業の再検討に迫られた。
そのなかで、複数事業を取捨選択する、つまり競争に負ける可能性が高い事業から撤退し成長可能性が高い産業に資源を集中する戦略フレームワークとしてBCGマトリックスが提唱された。
市場成長と自社事業成長が連動するものと単純化されており、企業間の競争や市場の製品の多様化・短ライフサイクル化などは考慮されていない。

ポーターの基本戦略

(マイケル・ポーター/1980年)

不完全競争の理論や産業組織論を発展させたポーターは、業界内で自社を特定の戦略グループ(差別化・コストリーダーシップ・集中)にポジショニングすることで、企業が業界他社と異なるパフォーマンスを得られる可能性を示した。

ポーターの基本戦略

当時の経営者の問題意識は、魅力的な事業領域を選択することよりむしろ、選択した事業領域でいかに競争に打ち勝つかに変化し始め、ひとつひとつの産業をより細緻に分析し、産業構造の理解に基づいた打ち手を提示する必要性が生じた。
ただしフレームワークを使いこなす前提として、長期的な産業構造変化を理解し根源的な収益要因と競争要因をファイブ・フォース分析を通じて理解することが重要だとされる。

資源ベース理論

(ジェイ・バーニー/1991年)

価値があり、希少性があり、模倣可能性が低く、代替可能性も低い企業内部の経営資源が、競合との差別化(異質性)を実現しそれを持続させること(固着性)につながるので、それが持続的な競争優位の源泉であるとした。

内部資源

1980年代も終わりに差し掛かると、産業構造はさらに不安定化し、外部環境だけの分析から戦略をつくり出すことが限界を迎える。
産業構造の分析に基づいて自社のポジショニングを議論しているうちに、いつの間にか事業モデルや技術標準にイノベーションをもたらす新規参入者が次々と現れ市場を席巻する事態が頻発し、持続的な競争優位を確立できなかったからである。
競争優位のために手に入れるべき内部資源とは、実務家が通常「資源」と聞いて想像するようなものではなく、資源を手に入れるための、知識、プロセス、人材、ネットワーク、能力などであるが、「それらを手に入れるために必要な資源」の獲得方法はいまだ特定されていない。

競争地位別戦略

(フィリップ・コトラー/1980年)

上記の流れ(市場と製品の組み合わせ→マーケット成長性と競合間の力比べ→市場内のポジショニング→独自の競争優位性)、とはやや別の切り口として、業界内をリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーの4つに分類し、それぞれの地位に基づいた戦略があると提唱。

地位別戦略

経営戦略論の変遷のまとめ

(2021/06/10)

新しい経営戦略理論は当然、その時点で普及している理論と環境変化との間に生じるギャップを埋める必要に迫られて提唱されるわけですが、それが生まれるに至った前後の関係性などの時代背景を踏まえた解説は、意外なことにあまり見かけません。

上記「経営戦略理論の変遷」は琴坂先生の記事を大幅に圧縮しある意味少なからず意訳した、本当に概略の経営戦略史ですが、フレームワークが生まれてきた背景を知ることで各々の意味合いが少し深く理解できる気がしてきます。

経営戦略という概念自体が考え出されてまだものの60年でしかないことに驚きますが、資源ベース理論以降はこれだけ世の中が変わっているのに、それを引き継ぐなり置き換わる有力な概念は出てなさそうな感じです。

くれぐれもですが、正しく経営戦略史を理解したければ経営戦略を読み解く〜実務と理論の狭間から〜(琴坂将広)を読み込むなりじぶんで調べるなりしてください。

まとめるなんておこがましいといえばおこがましいのですが、それでもあえてここでいいたいことは、経営戦略のフレームワークは時代時代の環境やニーズに応じて考え方が変わったり拡張されてきていて、世に出ると同時に陳腐化がはじまるものといっていいぐらいのもので、現在最新のフレームワークでさえまだ成長途上もしくは陳腐化途中といってもいいぐらいで、VUCAや新型コロナで環境が変わりつつある昨今、従来の教科書に載っている経営戦略の作り方に固執していてはもはや今後よい経営はできないかもしれない、ということです。

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