
(2025/10/07)
国際規格であるISO9004(JIS9004)が、「誰にとってもいい会社へ成長」するため企業アイデンティの確立を求めていることは前の記事で触れましたが、確立しようにもどう作ればどもような効能があるのか、規格からは皆目見当がつきません。
規格は具体的な記述指針もその効果もほとんど触れておらず、「組織は、そのアイデンティティ及び状況によって定められる」という程度の記述しかないのですが、過去の研究を調べぬきフルに洞察を働かせると、誰にとってもいい会社へ成長するためにやはりアイデンティティの不可欠性がおぼろげに見えてきます。
アイデンティティは短期収益への寄与は少なそうで、むしろ長期の企業価値改善に深く静かに効能がありそうなので、そのご利益を確信しブレることなく運用していく必要がありそうです。
なお、本来厳密には経営理念とアイデンティティは別物ながら当記事でも前記事と同様ほぼ同義として扱い、また組織アイデンティティ≒企業アイデンティティとして取り扱います。
組織アイデンティティの実像に迫るため定石に従い片っ端から論文をひもとくのですが、結構な数の研究報告を読み漁ったものの実は、組織アイデンティティの経営効果を実証的に立証したといえる研究は見当たりませんでした。

欧米の研究を探せば少しはヒットする可能性はなくはないでしょうが、日本の研究も当然海外論文は参照しそれをふまえて取り組まれたであろうことを考えると、やはり効果の証拠を掴んだ研究があるとは考えにくい状況です。
日本で普及しているのはむしろ企業理念ですが、その経営効果を実証的に立証したと言い切れる研究もやはり見当たりませんでした。
以降は今まででわかっていることの概略を理解するため各研究からさわりの部分を引用していますが、研究の意図と当ホームページの主張を正しく理解するため、可能な限り原文に目を通すことを推奨します。
▶佐藤は組織アイデンティ論の発生と発展(組織学会大会論文集/1巻 (2012)2号)で、
組織を取り巻く環境がより複雑で変化の激しいものになり・・・本来の「自分たちらしさ」がどこにあったのかを振り返ることも必要となる。・・・「自分たちらしさ」を再確認する事が必要になる。このような場合に、組織アイデンティティを考えることが有効となる。
としつつも、
(組織アイデンティティは)定量的な研究が十分に行われて来なかった ・・・
定義が多様な解釈を可能にするものであったため、同じ組織アイデンティティという概念を用いながらも異なる視点に基づく議論が生じている。視点が異なると、組織アイデンティティを用いてどのような組織現象を説明しようとするのかが異なってくる。
といい、定性的な議論はあっても実証研究は少なく、かつ組織アイデンティティ研究の視点や研究手法が思い思いで統一性が欠落していることを示唆しています。
▶この点は井上らもコーポレートブランディング実践に向けたフレームワーク コーポレート・アイデンティティ, ブランド, レピュテーションの概念整理を中心に(広報研究 25巻 (2021))で、
ここで問題となるのは、コーポレート・アイデンティティの概念をめぐって、少なからぬ混乱が生じていることである。
アイデンティティは本来、学際的な概念であり、多様な分野に研究の裾野が広がっている。
したがって、研究者たちが、それぞれ自分の分野の言葉でアイデンティティを語ることが多いため、定義や解釈が乱立しているのが実態である
といまだに根本的な解釈の不一致が解消されていない可能性をうかがい知ることができます。
▶池田は組織変革における組織ビジョンとアイデンティティの構築(情報コミュニケーション研究論集, 2017)で、
ビジョンの機能は統合された文化の有効性を前提として論じられてきた
と指摘し、ビジョンの機能自体が実は、有効であるという先入観の上に成り立っている可能性を示唆しているように読めます。
▶川村は中期経営計画におけるローリング方式を適用した業績への影響~ 長期ビジョンを見据えた計画遂行の有無に関する調査から~(情報コミュニケーション研究論集, 2017)で、
長期ビジョンの有無による業績への影響を調査した結果、長期ビジョンが平均ROA 上昇率において有意な結果を得た
というのですが、ビジョンの有無に効果があるというより、それを踏まえマネジメントコントロールを実施しPDCAをまわすことで業績が予算達成し見込み倒れにならずに済んだ、と考える方がより納得性がある気がします。
▶伊藤は組織変革におけるマネジメント・コントロールの役割−組織文化研究の視点の拡張の必要性(成蹊大学経済学部論集 第44巻第1号)で、
伝統的なマネジメント・コントロールの計画と統制からなるフォーマルな手法に加え、組織文化によるコントロールの必要性に触れ、組織文化の機能として、
組織の方向性を明確に定めることを通じて,その組織を取り巻く環境への適応を促進する外的適合の機能
組織成員のベクトルを一致させ,効率的な調整を促進し,エネルギーのロスを回避する,内的適合の機能
を挙げます。
もっとも、外的/内的適合の機能について定性的な主張は多いものの、それを実証した研究は発見できませんでした。
▶金らは組織コントロール戦略の新たなアプローチ-アイデンティティとアイデンティフィケーションの視点から(早稲田商學 巻447-448,p.1-34,2016)で、構成員の「組織に対する一体感(oneness)と帰属感(beloingness)の認知」過程である組織アイデンティフィケーションが構成員に与える影響として、
職務満足向上,転職意思の低下,役割外行動と向社会的行動,所属組織への支援行動,組織市民行動
があり、いっぽう
不正行為への関与,組織変革に対する慣性,反社会的な行動
といった悪影響が出ることもあるとしていますが、これらが業績や企業価値にどういうメカニズムでどの程度影響するかは触れていません。
▶西村は経営理念浸透施策に対する従業員の知覚と施策改善(経営・情報研究 多摩大学研究紀要,No.25(2021))で、経営理念がもたらす機能として
・企業内統合機能(内部統合機能)
組織内における指針として成員を統率するとともに、一体感を醸成し、その目的に向かって人々を動機づけるという機能
・社会適応機能(外部適応機能)
社会との関係において存在意義を公表することで正当性を示し、組織内を活性化させること。さらに、進むべき方向性を示すことで、外部環境への適応と存続を図るという機能
・経営実践機能
経営目標や戦略の策定、組織の諸制度を構築していく中で、経営理念をその意思決定の拠り所とする
があり、経営理念の機能が有効になるには構成員に理念が浸透することが前提であるとしつつも、浸透の結果どのような効果がどのくらいあるか、やはりそのメカニズムについての言及はありません。
▶金は経営理念の浸透が企業パフォーマンスに与える影響 : 組織アイデンティティ視点による事例分析(経営論集(北海学園大学)第18巻第1号2020)で、
これまで蓄積された定量的研究成果からしてみれば,経営理念および理念浸透と企業の収益性が必ずしも正の関係があるとはいいきれない。なぜなら,理念そして理念浸透とパフォーマンスに関する実証研究の結果は一様ではないから
経営理念は「意図的に提示された組織アイデンティティの一部」であるが、組織アイデンティティの概念定義や分析レベル,そして分析手法は多種多様
だと指摘します。
▶廣川らもまた経営理念浸透尺度の開発(産業・組織心理学研究/36巻 (2022)2号)で、
経営理念の重要性については幾度となく言及されながらも,蓄積が少ない研究分野であるといわれており(北居・田中,2009),経営理念の機能や有効性を実証的に検討した研究はさらに少ない
経営理念の浸透を測定する試みはなされてきたが,いまだ信頼性と妥当性がともに検証された尺度は見当たらない
と定量研究の不十分さ、理念効果のエビデンスの少なさを指摘します。
▶清水は企業変革に果たす経営理念の役割(三田商学研究.39,2(1996.6),p.87-)で、
「経営理念」 という言葉自体は、現実には一致した定義や共通の理解が成立していない。経営理念に関して、多くの論者の間で様々な定義づけや概念規定がなされている。
成長した企業の経営理念と、倒産した企業のそれとの間には、確たる差は認められなかった、経営理念は、その運用の如何により, 成功するか失敗するかが決まる
としたうえで上場メーカーの理念調査・単相関分析を行った結果として
[仮説1] 経営理念が末端の従業員にいたるまで浸透していれば、 企業変革のための革新に対する従業員の抵抗は低下する。
→ 経営理念の浸透と革新に対する抵抗の低下との相関係数をみてみると, 0.389であり,革新への抵抗を少なくするためには経営理念の浸透が必要である
[仮説2] 経営理念が末端の従業員にいたるまで浸透していれば、 従業員個人の能力は向上する。
→ 経営理念は人材育成の指針となり、個人の能力向上を促すものであることがわかる (経営理念浸透と個人能力向上とは0.435で相関)
[仮説3] 経営理念が末端の従業員にいたるまで浸透していれば, 上司と部下との情報共有が促進される。
→ 経営理念の浸透と情報共有化とは0.435で相関 している。このことからも、経営理念の浸透が情報共有を促進していることがわかる
[仮説4] 経営理念が末端の従業員にいたるまで浸透していれば, 権限と責任が下位の人間に委譲される。
→ 今日の企業が激しい環境変化に対応していくためには,前で述べた革新に対する抵 抗の抑制と、意思決定のスピードが要求されるのである。 そのためにはセクショナリズムを排し、 権限委譲を進めることが不可欠で、トップの経営理念の浸透がそれを促進することがわかった (経 営理念浸透と権限委譲は0.349で相関)
[仮説5]経営理念が末端の従業員にいたるまで浸透していれば、 従業員個人の挑戦意欲は向上する。
→ 経営理念は,不確実な状況下において常に修正され, 意思決定基準を企業組織に参 加している人々に提供し、共通の努力目標を作り出して、彼らの挑戦意欲を引き出すことができる のである(経営理念浸透と挑戦意欲とは0.439で相関)
[仮説6] 経営理念が末端の従業員にいたるまで浸透していれば, 従業員個人の帰属意識は向上する。
→ 経営理念の浸透は、企業に対する従業員の帰属意識を高める
と結論しています。
経営理念の研究としてはかなり具体性がある内容ですが、相関関係は必ずしも因果関係とは限らないし、因果があるとしても0.4前後の相関ではばらつきが大きすぎて、通常は因果関係を実感できるほどだとは言えません。

理念の効果がどう業績に反映されるか、メカニズムや強度に触れていないのは他研究同様です。
▶川北は「企業らしさ」 とは何か: 広報研究から見た経営理念, 組織アイデンティティ(南山経営研究, 2024)で、
どの企業も似たような言葉を(経営理念に)掲げており,言い換えると,その企業らしさを表す言葉になっていない場合も多い,近年の経営環境変化への対応も欠かせないなど,大切なことをすべて盛り込もうとすることで,ますます複雑になってきている
と指摘し、経営理念の表現・内容の曖昧さ・同質性に問題意識を示しています。
▶並木はミッション・ステートメントと企業業績の関係: 日本化学企業のケース(立教ビジネスレビュー 創刊号(2008)108-113)で、
ミッション・ステートメントを構築する企業は,戦略プランを立てている。戦略プランを立てる企業は,立てない企業よりも業績はより高いことが検証されている
ミッション・ステートメントを立てている企業は,立てていない企業よりも業績は高かった,ということが検証されている
ミッション・ステートメントを持っている企業と持っていない企業の投資収益率(ROI)と売上高利益率(ROS)は,だいたい同じであった。しかし,企業の売上の成長率では違いがあった。高い成長率を達成している企業の25%がミッション・ステートメントを持っていたのに反し,低い成長率を持っている企業の16%しか持っていなかった。その違いは有意差があった
と主張しますが、ミッション・ステートメントそのものに業績向上効果があるのか、戦略プランを立て、マネジメントコントロールを運用してPDCAをまわすことに効能があるのか、メカニズムの分析が十分といえません。
▶近藤はマネジメントコントロールが将来業績に与える影響(メルコ管理会計研究/12 巻 (2020) 1 号)で、
経営者のマネジメントコントロールに対する意識の高さが,1年先から3年先の将来業績に影響していた
と指摘します。
マネジメントコントロールには、伝統的な会計数値中心でサイバネティクス的なフォーマルコントロールの他に、組織文化や理念などによる信条コントロールや境界コントロールなど非フォーマルコントロールがあって、それらの有効性が指摘されています。
非フォーマルなマネジメントコントロールの一つとして、経営者の注目度の高さが構成員に伝搬して実践活動に影響するとされるインタラクティブコントロールの効果も議論されていますが、当報告に関しては、非フォーマルなマネジメントコントロールの効果というよりはフォーマル(診断的)コントロールを経営者が重視し、それが構成員のPDCA行動を促し業績向上につながったと考えるのがより自然であって、この研究では業績に影響する因子特定ができておらず曖昧なままであるといえます。
楢崎は経営理念の内容と業績との関係についての考察: 中小企業の事例による検証から(大阪府立大学経済研究 第56巻 4(234)〔2011.3〕)で、
これまでの分析や先行研究からも、経営理念は企業の業績に何らかの影響を与えていると思われる。ただ、問題はそのメカニズムの解明である。そこには大きな切り口が2つある。1つは、先行研究にもある「浸透の仕組み」の解明である。そして、もう1つが、本稿で述べた「内容の影響」の解明である。要は、どういった経営理念が、どういった仕組みで組織に浸透し、どのように業績に影響を与えているかである。
内容の解釈の問題であるが、経営理念の内容は非常に曖昧なものが多いため、研究者によって、その解釈の仕方が大きく違ってしまうおそれがあるということである。実際、中小企業94社の経営理念の内容を分析したが、主観的に判断せざるを得ず、解釈に迷うことも多々あった。
と言い、少なからぬ研究がありながらいまだに百家争鳴ともいえる状況で、アイデンティティにしても理念にしても、多くの研究を総括すること自体困難な状況が見て取れて状況改善は期待できそうにありません。
よくよく考えてみると、組織アイデンティティの影響をうけるのは構成員の心理状態だろうし、業績や企業価値に直接影響するのは判断・行動の結果の積み重ねであり、構成員心理が判断・行動に影響するとしても他にもたくさん影響因子があるだろうからアイデンティティ効果だけ特定するのはなかなか容易ではないでしょう。
もしそれができるくらいなら、アイデンティティよりはるか昔から議論されているモチベーションやコミットメントなど構成員心理の効果がとっくに定量的に導き出せているはずです。
しかもモチベーションやコミットメントが高まっても、キーボードを打つスピードが上がったりいいアイデアが次々湧いてくるようになるとは考えにくいように、アイデンティティによって経営に好ましい効果があるとしてもかなり間接的で遅効性を呈するように思えます。
注)モチベーションやコミットメントが非常に低い場合だと怒られない程度にチンタラ働くので、生産性は目に見えてなるだろうことはホーソン実験から理解することができます。
組織アイデンティティの影響を定量するのは、限りなく不可能だと考える方が自然なのかもしれません。
一流の研究者たちがいまだ暗中模索している答えを自力で考えるのも無駄なあがきだから、組織アイデンティティあるいは経営理念の経営効果や、それが発現するメカニズムは解明されるのを期待せずに待つことにして、ちょっと視点を変え、
「組織アイデンティティや理念の確立浸透は、ISO9004の組織実装にどんな支障ないし促進効果がありそうか」
という視点から考えてみます。
注)以降は自信はあるものの科学的なエビデンスがあるとまで言えない私見なので、そのつもりでご覧ください。
いうまでもないことですが、実は業務や仕事というのは判断と意思決定の連続です。
ルーチンな機械操作や加工組立といった比較的単純な繰り返し作業や定型的な事務処理では、人間はそれに習熟すると経験的直感的ないわゆるヒューリスティックな判断意思決定をするようになり、判断意思決定しているという自覚はあまりありません。
むしろそういう作業でイチイチ判断が入ってその都度手が止まるのは、作業効率つまり生産性の阻害要因にしかならないので、インダストリアルエンジニアリングの世界では可能な限り判断を減らしなかば無意識にこなせる作業設計が推奨されています。

そのような作業は生起頻度が高いので手順化標準化が徹底されて、意識的に判断・意思決定せざるを得ない場合でもシンプル化ルール化がなされ、ルール順守しさえすれば判断に迷わないように設計されるわけです。
3流4流企業では手順が標準化されていないこともままありますが、そういう企業は論外で作業効率や生産性が低いのは当然、それに対し手順化標準化を推奨しているのがISO9004の「箇条8プロセスのマネジメント」なりISO9001に代表される各種マネジメントシステムだというわけです。
ルーチンな仕事つまり直接に付加価値を生む仕事の効率は標準化や熟練などの因子の影響が大きく、いっぽうアイデンティティに目前の短期的な収益への寄与があるとは考えにくく、これは既存の知識や手順で対処できルール化できる仕事全般つまり、ハーバード・ケネディスクールのロナルド・ハイフェッツ教授が言うところの技術的課題(従来の知識や技術の延長で解決できる課題)全般にあてはまりそうです。
いっぽうで、再現性が無くルール化できない/問題構造が複雑/ミスが許されない、といった判断・意思決定は手順化にはあまり馴染まず、アルゴリズムと称される意識的で精緻な判断を経て論理的に問題解決する必要があって、必要十分な情報を突合せて起きうるケースやそれぞれの対策案を洗い出して最適と思われる解を見出す思考プロセスがとられます。
むろんアルゴリズムを実践し問題解決に至るためには、当該分野の十分な専門知識にもとづいた情報収集分析や問題構造分析や結末の推論など解決策を見出すための高度な情報処理能力が不可欠だし、解決法の実践に成功できる実践力量も必要になるのですが、それらのなかでももっとも重要な成功要因のひとつが対策の選定のしかたです。
問題の対策案は複数挙げ比較対照して最善解を選ぶのが鉄則ですが、誰も正解を知らない課題の対策プラン群から自社にとっての最適解を選定し自信をもって実施するには、誰にとっても腑に落ちる判断基準が必要です。
VUCAのご時世だけに経営環境はどんどん変わっていき、ルールも前例もない問題はオペレーションレベルから戦略レベルまで次々起きるのに、判断基準が曖昧で共有できてなくては鳩首凝議したところで意見収束するはずないし、なんでもかんでも最高意思決定者である社長にお伺いを立てていては社長がパンクします。
判断基準をルール化できないような、これまでの考え方や解決法ではどうにもならない経営課題は、ロナルド・ハイフェッツ教授の言うところの適応課題ですが、そういう場合に解決方策を選定する判断基準に使えるのが、あるいは準拠すべきなのがほかでもない使命・ビジョン・価値観・文化なのかもしれません。
使命・ビジョン・価値観・文化はいあわば組織が目指すことやありたい/あるべき姿の表明だから、これに準拠しない意思決定は甚だしい自己矛盾でしかないからです。
使命・ビジョン・価値観・文化はいわば組織のスピリットであり組織の最高位の大義名分なはずで、判断基準として利用可能なレベルの完成度になって浸透していれば、あらゆる有形無形のルールはこれに従うべきだし、これに準拠することで構成員全員が納得できアイデンティティと企業価値をより高める最善な選択ができるはずだともいえます。
ちなみにダイバーシティは同じ目的に多彩な解決案を用意できる利点がありますが、アイデンティティが曖昧では目的そのものが不明瞭になり、組織活動の整合性・統一性の欠如を招くことでしょう。
経営環境が目まぐるしく変わりしかも準拠できる判断ルールがない課題続出のこの先、従来思考では対処できない課題の打開である変革を方向付け、素早くブレない適切な判断で組織一体の環境追従をしていくうえで、アイデンティティ準拠は不可欠といえるでしょう。
なお、判断基準以前に必要な要件として課題検知能力がありますが、技術的課題がシングルループの問題解決だとすれば、適応課題はダブルループ問題解決であるとも言えて、理想状態との根本的な食い違いを認識する基準点になるのはやはりアイデンティティといえそうです。
「すでに解決策が分かっていて既存の知識で実行可能な複雑さである技術的な問題」である技術的課題に対処して既存のシステムを動かすのはマネジメントですが、「これまでの考え方や解決法ではどうにもならない環境の変化」である適応課題に対処して組織に変革をもたらすのはたいていの場合リーダーシップだから、使命・ビジョン・価値観・文化はいいかえればリーダーシップ実践の指針であるともいえます。
注)一部の適応課題たとえば研究室に一人こもって画期的発明をするのは、成立条件であるフォロワーシップの存在がないからリーダーシップではないですが、リーダーシップを発揮して解決する課題は程度の差はあってもすべて適応課題に該当するといえそうです。
ISO9004の箇条7「リーダーシップ」は主にトップマネジメントが実践すべきリーダーシップについて規定していますが、リーダーシップ成立の要件として不可欠なのがフォロワーシップです。
トップがアイデンティティに準じたリーダーシップを発揮しようとしても、フォロワーたる構成員がトップの意図や目的に異論や違和感をもっていては協調実践を通じた好ましい結果を得ることは容易ではないでしょう。
リーダーシップの下に構成員が結束し環境変化にすみやかに立ち向かいチャンスをものにするうえでも、アイデンティティの浸透は重要な要件になりそうです。
また、箇条7.1.2 j)「組織の全ての階層でのリーダーシップ育成支援」は、すべての階層においてその階層に応じたリーダーシップの涵養と実装が必要であることを示唆しています。
ルールも前例もない問題はオペレーションレベルから戦略レベルまで広く起こるだろうから、それぞれの階層でその役割責任においてリーダーシップを求められる事象が頻発するということでもあり、それを当事者が自律的に解決するうえで解決の指針になるのもやはりアイデンティティであるといえるでしょう。
構成員個々のリーダーシップが解決する適応課題は組織のダイナミックケイパビリティを支える構成要素でもありそうで、組織アイデンティティ(ないしアイデンティフィケーション)は構成員のリーダーシップに支えられたダイナミックケイパビリティの基盤になっている、といえるのかもしれません。
なおISO9004は、箇条7.2「方針及び戦略」で戦略立案を求めていますが、戦略はアイデンティティをより高めるために不確実な中で立案実行する適応課題対策のかたまりともいえて、やはり大前提たるアイデンティティなくして戦略はありえません。
また箇条9.2.4「人々の力量」は
a) 組織のアイデンティティ(使命,ビジョン,価値観及び文化),戦略,方針及び目標に従って,組織が必要とする個人の力量を明確にし,分析する。
ことを要求していますが、やはりアイデンティティが明確でそれに準拠したビジョンがあってこそ実施できることです。
まとめると、組織のアイデンティティが希薄だったり浸透していないとしたら、ISO9004の箇条7「リーダーシップ」以降を実践することはほぼ不可能で、ゆえに一寸先は闇の今後のビジネス環境でアイデンティティが希薄な組織は消えゆくか永久にうだつが上がらないということかもしれません。
なお組織のアイデンティティが希薄だったり浸透していないのは、根本的にはトップの不勉強かリーダーシップの欠如が原因に思えて、これについては次の記事で考えていきます。